KOBE、水平線の見える街で
ブライアン・ジーチ・ローレンツ 画家
イギリスの港町リバプール。ザ・ビートルズを生んだこの地が私の生まれ故郷だ。 家は港のすぐ近くで、毎日海を見て育った。四歳の頃、船体に「YOKOHAMA」と書かれ た船を見て以来、日本に憧れ、日本の切手を集めては、いつか行きたいと遠い国を想っ た。

四十二歳にしてようやく少年の日の夢が叶い、妻の故郷の信州に移り住んだ。北ア ルプスの麓のその村は、山が美しく、空気は澄みわたり、夜空は星が降るようだった。 この地の自然を愛した東山魁夷という素晴らしい日本画家を知ることもできた。ただ 四方を山に囲まれた信州には、海がない。「水平線の見える街で暮らしたい!」とい う想いは、次第に抑えがたくなった。
神戸を選んだのは、港町という理由だが、実はそれ以外はほとんど何も知らないま ま、衝動的に移住を決めた。でも実際に住んでみて、自分でも賢い決断だったことは すぐにわかった。

第一に神戸は、外国人には非常に住みやすい。港町としての歴史が長いせいか、み んな外国人慣れしているから、自然に街にとけ込める。食べ物もとても美味しい。海 が近いから、ついさっきまでダンスをしていたような新鮮な魚が豊富なのも嬉しい。 どこへでも「歩いていける」ことも大きな魅力。家から二十分も歩けば海(ハーバー ランド)に着き、逆に向かえば同じく二十分で山があり、滝があり、温泉もある。街 なかに行くなら北野の異人館、日本庭園が素晴らしい相楽園。特に私の春のお奨めは 桜が満開の会下山公園──歩いて絵を描きに行ける大好きな場所を挙げたらキリがな いほどだ。
そして何より神戸には「水平線」がある。山に囲まれた信州と異なり、海に臨む神 戸は「空」が大きいのだ。気持ちがどんどん自由に開放的になる。海の香りに包まれ 波の音を聴き砂浜を歩く。須磨や舞子の浜に座り、沖を眺めれば、故郷のリバプール を身近に感じる。だから今では「お生まれは?」と聞かれると、「淡路島のちょっと 向こうです」と答えるようになった。
初めて神戸に来た日に乗ったタクシーの運転手が、こんなことを言っていた。「神 戸には一つ問題がある。一度来たら帰りたくなくなるんや」と。彼の言うとおりだっ た。水平線が見え、海も山も近い神戸で、私もいつまでも美しい自然や風景を描き続 けたい。







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