Recording Diary
 
 CHIBITE のメンバー、ザウォセ家の人たちが住んでいるバガモヨは、タンザニアの東海岸、中心都市のダルエスサラームから車に揺られて約1時間の道のりです。ザウォセ家は、のどかな雰囲気の農村地帯にありました。三楝の家屋に20人以上の大家族で住んでいます。お昼くらいに到着すると、午後から練習があるというので見学させてもらいました。
 
 庭はけっこう広くて奥の方には畑もあります。その手前に大きなマンゴーの木があり、その木陰が練習に最適な空間になっています。まずは、全員が集まってコーラスの練習をしていました。かなり熱のこもった雰囲気です。実は2日後に観光客相手のコンサートがこの地で開かれるのです。コーラスが終わるとそれぞれが自分の受け持つ楽器を持って練習を始めました。
 
 
 ザウォセ一家の代表的な楽器にリンバというものがあります。木箱の上部に金属製の鍵盤が数十本付いていて、親指でつま弾きながら演奏します。鍵盤の一部分には、空き缶を切り抜いた金属片が巻き付けてあり、それが共鳴して歪んだ感じの音を発します。これが倍音豊かな響きを作り出すのです。木箱にはいくつか穴があいていて、そこには繭の幕が貼ってあります。これも共鳴に一役買っています。もう一つの代表的な楽器がゼゼという弦楽器です。ボディはひょうたんで出来ていて、弦にはピアノ線を使っています。
 CHIBITE の音楽上のリーダーはルーカスという人で、ゴンゴーラと言う即興で唄うパートを受け持っています。いわゆるメイン・ヴォーカルですね。それに彼は楽器の名手でもあります。午後の練習は彼が全員を指揮しながら細かな部分に修正を加えていました。
この練習の模様は、
 普段、彼らはどんなものを食べているのかというと、主食はウガリというトウモロコシの粉をお湯でといて練ったものです。白くお餅みたいな感じですが、餅よりは粘り気が無く、マッシュドポテトのような感じです。これを、トマトベースのスープにつけて食べるとなかなかいけるんですよ。また、スクマウィキという、ほうれん草のような野菜をコーン油とマギーブイヨンで炒めたものもかなり美味しいです。スクマウィキはケニアでの名称で、タンザニアではムティチャと呼ばれているようです。主食のウガリは米のご飯に比べると腹持ちが良いためキャンピング生活にも適しています。
 
 翌朝、窓から日が差し込んでくると。表から楽器の音が聴こえてきました。もう、誰かが練習を始めています。表に出てみると、手作りの木製の椅子に腰掛けてゼゼ(弦楽器)を弾いていました。一本借りて自分も参加してみました。この一家には、欧米の若者たちがレッスンに訪れることも多くて、楽団の人たちは教え方が上手です。スタンダードなアルペジオを教えてもらい、繰り返し練習してみました。ある程度までは出来ましたけど、簡単ではなかったですね。
 昼間になると、多くの人が家を出たり入ったりしています。家の前では老婆が地面を掃いていたり、工場では誰かが楽器や家具を作っていたり、子供たちは駆け回って遊んでいたりと、かなりにぎやかです。大家族の中で育てば楽しいだろうなと、うらやましく思ったりもします。これから、練習の様子を録音しようとマイクロホンを準備していると、遊んでいた子供たちがマイクを取り囲んで歌い、踊り始めました。普段学校の授業で習っている歌らしいのですが、本当に自然で生き生きとしている様子を見て、こうやって将来の演奏家が自由な環境で育っていくのだなと感じました。
 
 日本からは最新型のポータブルな録音機とマイクロホンを運んできました。飛行機で一人で運べる機材には限りがありますが、最近のテクノロジーの進化によって、彼らの録音に必要最低限な装備を選択して持ち込みました。メインの機材は、雑誌の広告に出ているようなアマチュア・ミュージシャンが使っているようなものと、普段のテレビ番組の収録に使っているものを組み合わせました。本番は全員が同時に演奏して唄う一発録りになります。そのため、メインのゴンゴーラと呼ばれる即興で唄うパートにはかぶりを防ぐために単一指向性のダイナミックマイクを使いました。CHIBITE の代表的な楽器であるリンバにはピンマイクを仕込みました。全体の音を拾うメインのマイクになるのはワンポイント・ステレオマイクです。これだけ人数の多い編成ではそれだけの数のマイクを用意する訳にはいきません。そして、アンビエント用に映画やテレビの収録でお馴染みのガンマイクを使いました。これもステレオ仕様になっています。
 
 最初に収録したのは、オール・メンバーによるオーケストラ編成の Chikae Gwe Chikaeです。ゼゼの弦を爪弾く音から始まり、オール・インストゥルメントによるイントロに続き、ルーカスのゴンゴーラが響き渡ります。この曲では、将来サラウンド仕上げも出来るようにと女性コーラスを楽器群の反対側に配置しました。それで、360度包み込まれるレイアウトでオーケストラ曲を聴くことになったのですが、それは凄い迫力でした。
 2台のゼゼから始まりオーケストラ全体へと展開するイントロ、そしてルーカスのゴンゴーラ、女性コーラスへと繋がって行きます。360度包み込まれるようなレイアウトで演奏されたChikae Gwe Chikaeは、静まり返った農村の夜空に響き渡っていました。
 
 他の曲に関しては、それぞれの歌詞の解説をご覧ください。
 音楽的な解説は、故フクウェ・ザウォセ氏に師事したリンバ奏者のサカキマンゴーさんのサイトに良いものがあります。
を参考にしてください。
 
 このアルバムは10曲の構成ですが、そのほとんどでコンゴーラという即興で唄うパート(実質的にはヴォーカル)を担当しているのは、ルーカスです。練習のときに、声だけを録音させてもらいましたが、とても迫力ある、存在感のある響きでした。故フクウェ・ザウォセの弟で、リンバやゼゼなどいろいろな楽器の名手です。練習のときにも彼が全体の指導をしていました。
 
 ザウォセ氏の長男ジュリアスは、やはりゼゼやリンバを演奏します。とても温厚で包容力のある人柄です。元警察官で演奏メンバーのダハニと一緒にゼゼの演奏を教えてもらいました。彼らは毎日のように庭で練習を続けています。ダハニは元警察官なうえ目つきの鋭い人なので、最初の頃はちょっと怖い印象でしたが、こちらが子供の相手をしているのを見て安心したのか、次第に話しかけてくれるようになり、しまいにはとても親切に接してくれました。こちらはスワヒリ語が苦手なのですが、それでも何となく通じ合えるから不思議です。まだ、太陽の光が斜めの涼しい時間帯に、お茶を飲みながら楽器を練習するのは、なかなか贅沢な時間の過ごし方と思えました。
 
 少し込み入ったコミュニケーションが必要なときには、英語を話すダニーとサラフィナに助けてもらいました。2人ともまだ若く、これからの楽団の顔となることでしょう。ダニーは録音のためにいろいろと協力してくれて、リンバだけのテスト録音のために演奏してくれました。これによって、マイクの位置を調整することが出来ました。リンバは単独で聴いてもとても倍音豊かな音色で心地良いです。
 若手のホープ、アンドレアは、素晴らしいマイルドな声の持ち主で、未来の  CHIBITE を担う存在です。彼は例外的にザウェセ・ファミリーとは血縁がありませんが、ファミリーの中でも重要な存在となっています。後ほどご紹介しますが、彼の声がフューチャーされた曲もアルバムに含まれています。
 タブはザウォセの娘で2児の母です。女性は普段太鼓やコーラスを受け持つことが多いのですが、彼女の場合はリンバやゼゼもこなし、リード・ヴォイスもとれるマルチなミュージシャンです。何度か来日経験もあり、昨年の10月には日本人のミュージシャンと全国ツアーを行いました。その模様は、
 ザウォセ家での滞在の途中から収録を手伝ってくれたのは、サカキマンゴーさんです。故フクウェ・ザウォセ氏に弟子入りしてリンバを学び、ご自身もアルバムを発売して全国ツアーを行っています。スワヒリ語が流暢に話せるマンゴーさんが協力してくれたおかげでかなりコミュニケーションがスムーズに進みました。また、CHIBITE の音楽を良く知っているので、いろいろとアドバイスをしてもらい、助かりました。そんな彼でも、今回録音する曲は初めて聴いたそうです。毎回来るたびに新曲が出来ているそうで、CHIBITE の創造力の豊かさを実感していました。20人を超える大編成での演奏はタンザニアに来ないと聴けないそうで、彼も録音に立ち会ってかなりうれしかったようです。
 CHIBITE の曲作りは、彼らの部族であるゴゴの昔から伝わるメロディーや詩をモチーフに、アルンジしたり新たな要素を加えていったりするそうです。次回バガモヨに行くときには、どのような新曲が出来上がっているのか楽しみです。
 
 録音は、午後9時からバガモヨにある彼らの住まいに面している、野外スタジオで始まりました。なぜ、夜なのかというと理由は2つあります。海岸からそれほど遠くないこの場所は、昼間はけっこう風に吹かれます。夜になるとそれが収まるのです。それから、子供たちがこの時間になると寝静まるため、田舎の農村部であるこの辺り一帯はひっそりと静まり返り、録音に適した条件となります。録音は夜にやろうと提案してきたのはルーカスです。さすがにこれまでにたびたび海外での公演やレコーディングを経験して来ている彼らは、録音のことを良く理解していました。
 最後の演奏が終わったときには午前4時を過ぎていて、みなヘトヘトになっていました。夜通し良くやったと思います。ザウォセ家のロビーに御座を敷くと、数人は倒れ込むように眠りに入りました。
 過去のザウォセ一家の演奏を録音したものは、録音した場所がイギリスや日本だったため、少人数での編成に留まっていました。リアル・ワールドの「CHIBITE」や日本ビクターの「驚異のイリンバ・アンサンブル」などは、小編成でも充分楽器や唄の魅力が伝わってくる名演奏でした。新しく録音された「IN BAGAMOYO」は、タンザニアでの収録のため、20人を超える大編成での演奏を記録した貴重な作品と言えるでしょう。
 
 
http://dp33088543.lolipop.jp/blog/archives/fbi/cat8/index.html http://dp33088543.lolipop.jp/blog/archives/fbi/cat8/index.htmlshapeimage_3_link_0
のサイトで聴くことができます。ダウンロードは出来ませんので、パソコンにヘッドフォンをつないでお聴きください。
http://dp33088543.lolipop.jp/blog/archives/fbi/cat8/index.html http://dp33088543.lolipop.jp/blog/archives/fbi/cat8/index.htmlshapeimage_4_link_0
で聴けるようになっています。興味のある方は是非どうぞ。
練習の雰囲気はこちらで聴けます