Liner Notes
 
01 Mkungwe Wakuno
 
 Mkungwe Wakuno は、アルバムでは冒頭を飾る曲です。「喜びの儀礼」、男の子の割礼(成人儀礼)について唄っています。アフリカでは、多くの部族が成人式のときに割礼を行います。この唄は、成人式を迎えた若者が、「この喜びは他の何にもたとえようがない」、と言った大人になった喜びを表しています。
 成人の儀礼では、若者は森の中の小屋に集まって大人の話を聞きます。そこで数日レクチャーを受ける訳です。おそらく、昔から伝わるしきたりや、大人としての心構え、また、他愛も無い雑談などしながら楽しく過ごすのでしょう。数日森の中で過ごした後、村へ戻ると太鼓に迎えられ、歓迎の儀礼とともに若者は大人となるそうです。
 この曲は、イリンバ(やや大型のリンバ)6台による演奏です。イリンバは、CHIBITE の代表的な楽器と言えるでしょう。そのため、この曲をアルバムの第1曲目に選びました。このイリンバが6台は、とても重厚な音色を奏で、他ではまったく聴いたことの無い、独特の心地良い響きを聴かせてくれます。イントロダクションが2分を超える長いものですが、この音色に魅了された人は時間を忘れて聴き惚れてしまいます。
 
02 Mkulawa Hai
 
 女性だけの編成、Mkulawa Hai は、2つの太鼓と10人くらいのコーラスによるリズミカルで小気味良いサウンドです。軽快で乾いた太鼓の音から始まり、甲高いゲレゲレ(アラララララララ・・・という声)で、テンションが上がったところで、故フクウェ・ザウォセの妻エミ(ママペンド)のゴンゴーラへとつながります。
 「音楽はどこから来た?」という意味のタイトルです。「誰かがこの音楽はどこから来たの?と私たちに尋ねたら、フクウェ・ザウォセとその父ウビからの贈り物だと答えるだろう。買った訳ではない、私たちのものなのだ。」
 途中から曲調が代わり、ザウォセの娘タブのゴンゴーラに代わります。若々しい明るい声とエキサイティングな太鼓のサウンドで一気にクライマックスへと盛り上がってゆきます。
03 Dunia Inatisha
 
 おもいっきり歪ませた中型のリンバのイントロで始まるDunia Inatishaはシンプルな編成で、複数のリンバと女性コーラスで構成されています。「震える地球」という意味のタイトル。この歌は戦争や飢えや病気などを訴える歌です。だから神様にこのような困難を取り除くようにお願いしなければ。この歌はそのようなことを伝えようとしています。
 
 このリンバの歪みの秘密は、金属製鍵盤の周りに巻いてある金属製の枠です。これは空き缶を切り抜いて作ってあります。リンバのボディは木製の箱ですが、ギターのように丸い穴が開いています。この穴に繭が貼ってあって、それが共鳴することで、また、独自の歪みを作り出しているのです。彼らにとってはこの歪みがとても重要で、これによってぶ厚い倍音を奏でています。
 
04 Chikae Gwe Chikae
 
 Chikae Gwe Chikaeは、編成の重厚な作りになっています。リンバ、ゼゼ、木琴、太鼓、カヤンバ、女性コーラスで、ゴンゴーラ(メイン・ヴォーカルのようなもの)はルーカス。「明日への希望」という意味のタイトル。慎重さ(注意深さ)や真実について唄っています。
 
 「何かを期待しても自分たちには何ももたらされることがなく、時間を無駄に待ち続けるということがある。不確かな事を期待せず、目の前の現実を見つめて日々の生活を大切に生きてゆこう。」
「私たちは私たちの音楽を続けていく。これは耳へのごちそうなんだ」「私たちはDr.ザウォセの子どもたちだ。私たちの音楽はアフリカから、タンザニアから、ドドマから来た。私たちはバガモヨにいる」
 
 一見悲観的な内容にも思えますが、そこから現実を見つめ直して前向きな方向へと発展しています。何だか励まされるような気分になります。楽曲自体も躍動感溢れ、迫力満点です。
 
05 Chikuku Mwende
 
 男性だけの編成で、1本弦のゼゼのイントロで始まる Chikuku Mwende は、中国の胡弓をもっとマイルドにしたような音色が印象的です。とてもシンプルな構成で、ゼゼの伴奏にルーカスのゴンゴーラ(メイン・ヴォーカルのようなもの)とバック・コーラスの掛け合いが、実に心地よく響きます。
 タイトルは、「私のお気に入り」という意味で、好き嫌いについて唄ったものです。「私たちのように音楽が好きな人もいれば、タバコや酒が好きな人もいる。農作業が好きな人に商売が好きな人、またはある食べ物が好きな人がいるように人の好き嫌いはさまざまだ。私たちは、いつでも自分の唄いたいときに好きな唄を唄おう。」
 
06 Ejama Nyie
 
 Ejama Nyie は、「がんばりましょう」という意味のタイトルです。小型のリンバ(チリンバ)から始まり、ルーカスのゴンゴーラへと展開していきます。サビの男性コーラスが、「がんばりましょう」と励まされているような気分にしてくれます。
「ウビ・ザウォセは、息子のフクウェに音楽の源を教えた。」
「フクウェもまた私たち弟子たち、子どもたちにこのように教えることをやめなかった。」
「彼は私たちに音楽を教え、私たちに音楽という遺産を残してくれたのだ。」
 
07 Zilimihanze Zikumota
 
 若手のホープ、アンドレアがフューチャーされている Zilimihanze Zikumota。基になる旋律は彼らの部族、ゴゴの民族音楽から来ていると思いますが、ゴンゴーラとバック・コーラスのコンビネーションは、深い森に響き渡るピグミーの音楽にも通じるものを感じます。声だけのポリフォニーで、実に気持ちの良い曲です。
 「幸せの種をまけば実りも多い」
 人々が農作業から戻ったときに唄う曲です。
 「収穫時期のトウモロコシ畑はとても好ましい場所となる。柔らかいトウモロコシを焼いたり煮たりして食べてみるのはとても幸せなことだ。神様が雨を降らしてくれた、そしてピーナッツも私たちに与えてくれた。さあ、男たちも女たちも近所の家に集まってこのチルミ(Chilumi)の唄(合唱形式のもの)を唄おう。」
 
08 Mleche Waze
 
 続くMleche Wazeも同じ編成のオーケストラ曲です。「前へ進もう」という意味のタイトルで、グループが前進するための唄です。
 
「私たちは近しいものが亡くなるという困難があり、唄をつくった。」
「私たちは悲しみでいっぱいだったが、嘆き悲しみに臥し続けてばかりはいられないのだ。私たちは今もこれからも前に進んでいくのだ。」
09 Tuwe na Amani
 
 次の Tuwe na Amani は、イリンバ・ンドノというすこし大型のリンバをルーカスが演奏しながら唄っています。同じように複数のリンバの伴奏と女性コーラスの編成です。低音のリンバの響きもまた味わい深いものがあります。
 
 タイトルは、「平和への祈り」。この曲は神について唄っています。
「世界中の多くの国々で貧困や紛争など、解決が困難ないろいろな問題があるけれども、どうかアフリカ、ヨーロッパ、世界中が神の恵みによって平和になりますように。私たちは皆、神の創造物なのだから。」
 
 アフリカの唄には、神と祈りが出てくることが多いのですが、それだけ人々の生活の中に信仰心が根付いているのだと思います。物資に恵まれた先進国で暮らしている人にはピンとこないかも知れませんが、まだまだ、世界中の人々の生活の基盤に神が存在していることは、旅する先々で感じます。そういえば、故フクウェ・ザウォセ氏のアルバム「CHIBITE」(リアル・ワールド)の日本盤の題名は「平和を夢見て」でした。
1曲目の Sisitizo La Amani Duniani では、「Hiroshima」や「Japani」と言った単語が耳につきます。
 
10 Ilanzi
 
 最後を飾るのは、Ilanzi(Boresho la muziki)です。「音楽の高み」という意味のタイトルで、気を紛らわすために演奏する曲です。牛飼いたちは午後1時か2時ころ、腹がとても減ってくると『ムエレムエレ』と呼ばれる木をナイフで切って、その幹から筒のようなものを作り、牛たちの様子を見ながらそれを叩いたり唄ったりします。そして気がつくといつの間にか日は沈み、時間は過ぎ、空腹も収まっている。「さあ、牛たちを連れて家に戻る時間がきた。音楽を楽しむ時間がきた!」
 Ilanzi で聴かれる笛の音は、Lの字の形をしている水道管の様な鉄パイプで演奏されています。アフリカのミュージシャンは、身の回りにあるものを工夫して楽器を作っています。例えば、自動車のパーツや空き缶、ひょうたんなどです。Ilanzi で使われたものは、どう見ても普通の鉄パイプで、別に余計な小さい穴があいている訳では無いのに、唇の加減だけであのような音階を作り出すのはまったく驚異的としか言いようがありません。