『毎日新聞』土曜解説 2007年4月28日
国民投票法案 公務員の表現の自由を制約
憲法改正手続きを定める与党の国民投票法案に対し、公務員の「表現の自由」を制約するとの懸念が出ている。与党案では、国家、地方公務員法の「政治的行為の制限」規定が、賛否の投票を一般の人に呼び掛ける国民投票運動に適用されるためだ。労働組合や学者らは「憲法改正問題について自由に発言できないのはおかしい」と主張する。懸念が高まる背景には、近年、政党ビラを配布した公務員が逮捕される事件が相次ぐ事情もあるようだ。
与党案は衆院で可決し、現在、参院での審議が続いている。「政治的行為の制限」について与党は昨年12月、適用除外をいったんは決めた。だが、自民党内から「公務員に対し、勤務外とはいえ、国民投票にかかわる運動を自由にしていいのか」との意見が続出し方針転換した。一方、衆院で否決された民主党案では、適用除外が明記された。
憲法9条を守ろうという共産党の機関紙を配布し、04年3月に国家公務員法(政治的行為の制限)違反で逮捕、起訴された社会保険庁職員の堀越明男さん=東京地裁・罰金10万円(執行猶予2年)、控訴中=は「公務員という理由で政治的自由を制限するのはおかしい。現場は既に萎縮(いしゅく)している」と話す。
与党案では、法施行(公布後3年以内)までに何が「政治的行為」に当たるかなどを検討する。政治目的を持った組織的な署名運動や示威運動、政党など政治団体の機関紙やビラを作成し、配布する行為が対象となり得るという。
東京都が君が代を歌わなかった教職員らを大量に処分したことを争う「東京『日の丸・君が代』処分取り消し訴訟」原告団の近藤徹事務局長は「東京都なら恣意(しい)的な運用をしかねない」と懸念。日本国家公務員労働組合連合会の香月直之・書記次長も「公務員の政治的行為を認めるのが世界的な流れだ」と批判する。
一方、知事や市長など地公法が適用されない特別職は制約を受けない。
与党・民主党案ともに公務員や私立校の教員ら教育者の地位を利用した国民投票運動も禁じている。憲法は公務員にも憲法尊重擁護義務を負わせているが、公立校の授業で憲法の重要性を話したことも運用次第では違法とされかねない。対象は500万人に上るという。水島朝穂・早稲田大教授(憲法)ら100人を超える研究者は慎重審議を求める声明を発表している。
社会部・臺宏士