改憲国民投票法案情報センター
 
『福島民友新聞』社説 2007年4月13日
国民投票法案/不明瞭点多くもっと審議を
 憲法改正の手続きを定める国民投票法案の自民、公明の与党修正案が衆院憲法調査特別委員会で採決された。両党はきょう13日にも衆院を通過させる方針だ。
 安倍晋三首相は5月3日の憲法記念日までに同法の成立を目指しており、慌ただしい一連の流れは憲法記念日までの成立を最優先に置いた政治日程の逆算で動いている。このため、一番大事な憲法改正を認める具体的な要件が詰められておらず、拙速の感は否めない。
 憲法改正の手続きは憲法九六条の規定により、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民の過半数の賛成が必要、とされているだけで、国民投票の中身は示されていないことから、憲法改正には国民投票の実施方法などを定めた投票法が必要となる。
 憲法改正をこの夏の参院選の争点にしたい安倍政権にとっては、憲法記念日までに国民投票法を成立させれば、参院選で憲法改正論議を加速させることにつながる。遅くても5月いっぱいの成立を実現させたいところだろう。
 同法案めぐっては、民主党も賛成していた。与党と民主党の修正協議の中で、当初の与党案から新聞報道にからむメディア規制条項が削除され、投票権者の最低年齢も20歳から18歳に引き下げられるなど、民主党案に歩み寄る修正が施された。しかし、依然として国民投票の姿がはっきりしていない。
 まず、国民の過半数の賛成をどう解釈するかだ。その解釈としては(1)全有権者の過半数(2)有効投票の過半数(3)投票総数の過半数が考えられ、最もハードルが高いのが(1)の有権者の過半数で、最も低いのが投票総数の過半数だ。
 次の問題は投票率をどう見るかだ。国政、地方を問わず、選挙の投票率は年々ダウンしており、5日前に行われた本県の県議選投票率は57%と過去最低を更新した。国の骨格を形成する憲法改正の投票率が、50%以下でも有効となるのだろうか。投票率50%で、憲法改正賛成が51%とすれば、有権者の4分の3は、賛成とも反対とも意思表示をしていないことになる。それでも賛成が51%と、過半数を超えているからと、改正に踏み切っていいものかどうか。
 共同通信が3月10、11日に行った全国電話世論調査によると、国民投票法に関して「賛成」が56%、「反対」が24%となっている。ただ、賛成した人の68%は「今国会成立にこだわる必要はない」と回答している。
 後半国会での国民の最大の関心は格差解消、安心して暮らしていける社会保障制度の確立であって、世論調査に見られるように、国民投票法案ではないはずだ。国民投票法案は時間をかけて不備の点を詰める作業が必要で、何も急ぐことはない。
 
『京都新聞』社説 2007年4月13日
国民投票法案  理解深まったと言えぬ
 なぜ急ぐ必要があるのか。論議は十分尽くしたのか。
 憲法改正手続きを定める国民投票法案の与党修正案が、野党が採決に強く抗議するなか、衆院憲法調査特別委員会で可決された。
 きょう衆院本会議で可決され、参院審議を経て、今国会で成立する見通しとなった。憲法改正にかかわる重要法案であるだけに、参院では丁寧で慎重な審議を求めたい。
 それにしても法案をめぐる与野党の動きは分かりづらい。
 昨年五月に与党と民主党の双方が法案を提出して以来、三党が修正協議を重ねた。今国会でも、共同修正案をつくる方向で協議を続けてきた。
 実際、与党は投票権を認める年齢について「二十歳以上」を「十八歳以上」と修正するなど、民主党案に歩み寄った。残る主な相違点は、国民投票の対象を「憲法改正」にしぼるのか、「国政上の重要課題」にまで広げるのかくらいだ。
 だが与党案と民主党案の違いが大差ないところまで縮まったにもかかわらず、法案一本化は頓挫した。背景に七月の参院選をにらんだ双方の思惑や駆け引きがからんでいる、としか思えない。
 共同修正案の作成に当初は応じながら軌道修正したのはなぜか、民主党は明確に説明するべきだ。「安倍晋三首相のタイムスケジュールに合わせて強引に押し通す姿勢を容認できない」(菅直人代表代行)とする根拠をもっと分かりやすく示し、理解を求める姿勢が要る。
 与党も、なぜ今国会での法案成立にこだわるのか、明らかにしてもらいたい。「長い期間、深い議論をしてきた。機は熟した」と安倍首相は言うが、共同通信社の全国電話世論調査では、同法案への「賛成」は56・2%と多い半面、このうち67・5%が「今国会成立にこだわる必要がない」としている。もっと時間をかけた議論が必要だと感じている国民は多いのではないか。
 実際の国会審議でも、与野党の論議が不十分な点が多い。法案の内容に具体性が乏しいからだ。なぜ投票年齢を十八歳以上とするのか。二十歳以上とする公職選挙法との整合性をどうとるのか。最低投票率を規定するか否か…。
 これらのことをあいまいにしたまま法案を通すのでは、国会が立法府としての責務を軽視したに等しい。
 衆院特別委の採決を前に四回開催された公聴会でも、こうした疑問や提言が相次いだ。たんに「聞き置く」だけの公聴会では、国民の声を聞くシステムがますます形骸(けいがい)化するだけだ。
 政党こそ、有権者のさまざまな声を拾い上げ、政策に生かす道を考えるべきだろう。有識者中心の公聴会だけでなく、広く一般市民の意見を聞く仕組みが必要だ。
 とても国民投票法案に対する国民的議論が尽くされたとは、思えない。
 
『宮崎日日新聞』くろしお 2007年4月13日
国民投票法は政争の具
 国民投票法案の名から住民投票と同じような法案と勘違いしている人がいるらしい。住民投票に拘束力はないのに対し、国民投票には法的拘束力が生じる。雲泥の差がある。
 
 住民投票といえば2年半前の清武町の住民投票を思い出す。合併の是非を問うものだったが「町長が投票結果を尊重しなければならない」と条例で定めた投票率50%に届かなかった。「合併しない」と「宮崎市・田野町と合併する」の差は接近し、混迷を深めた。
 仮に投票率50%を達成し町民の多数が甲を選んでも、町長は乙を選択して何ら問題ない。拘束力がないし住民は首長の解職を求める手段を残しているからだ。しかし、与党の国民投票法案によると投票の過半数で即、憲法が改正される。
 
 きょうにも衆院で可決される国民投票法案は「憲法改正手続法案」と言ったほうが分かりやすい。大都市と地方との格差、税制や年金、医療や福祉の問題など国民には解決してほしい問題が山ほどある。なぜ今、憲法改正につながる国民投票法案論議になるのか。
 
 政治的背景は複雑なことが多いが、今回の構図は分かりやすい。安倍首相が「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げているからだ。憲法改正を参院選の焦点とし、下がり続ける支持率に歯止めをかけ、求心力を高める狙いもあろう。
 
 法案は最低投票率を定めていない。低い投票率だった場合、その過半数の有権者の意思だけで改正される。今年憲法は施行60周年を迎える。だれとも戦争せず無事還暦を迎えた壮年が、政争の具となってうろたえているかのようである。
 
『北海道新聞』社説  2007年4月13日
国民投票法案可決*改憲への「危うい一歩」だ
 改憲手続きを定める与党提出の国民投票法案が衆院憲法調査特別委員会で野党の反対を押し切って可決され、きょう衆院を通過する見通しとなった。
 戦後体制の見直しを掲げる安倍晋三首相は、教育基本法改正や防衛庁の省昇格など憲法の足元を揺るがすタカ派的な課題を、数の力で通してきた。
 国民投票法案の可決は、こうした流れの中、現憲法の平和主義に対する改憲勢力の攻勢が新たな段階に踏み出したことを意味する。
 強権的と言える手法を貫いているのは、主権者である国民に対する政治のおごりではないか。幅広い政治的合意が必要な課題に対しても、強引に押し通せば、既成事実となり、やがては批判も絶える、と考えているならとんでもないことだ。
 法案はなお多くの欠陥を含んでいる。審議を引き継ぐ参院が良識の府なら、いったん廃案にすべきだろう。
*「中立的法案」ではない
 国民投票法案を推進する勢力は「改憲をするかしないかに関係なく手続き法は必要なもの。中立的法案だ」と説明してきた。だが実際は、単なる手続きの印象を与えながら、改憲を容易にする内容でまとめられた。
 改憲手続きは、国民の改憲機運が高まり、国会が発議に至る具体的な状況が生まれて初めて必要になる。
 国民の意思を確認するための制度の設計はそれまでに、時間をかけて慎重に行われるべきものだ。
 法案審議の過程では、多くの基本的な問題点が指摘された。それらは解消されずに残っている。
 中央、地方での公聴会でも、なお審議が必要との意見が多かった。
 憲法学者を中心とする法律専門家らも、法案の根本的不備を批判する緊急声明を発表している。
 与党はこれらの指摘に目をつぶり、採決を急いだ。結局は、改憲を争点とする参院選への影響を意識し、今国会での成立へ強引にこまを進めた。
*出発点にはき違えがある
 憲法を改正する権限は国民にある。その判断に際し、偏った情報の提供があってならないのは当然だ。
 ところが可決された法案は、原案の段階から発議する国会の言い分を後押しするものだった。
 憲法の基本は、国会を含む公権力を、主権者である国民が制御する国民主権にある。
 国会は改憲について提案する立場であり、決して中立的な機関ではない。
 なのに憲法改正案広報協議会を国会内に置き、その委員は国会の議員比率に応じて割り当てる形だ。いわば改憲の提案者が広報も担う形となり、情報提供の公正さ確保に疑問が残る。
 賛否を主張する政党による無料意見広告の量や回数についても、当初は議員数に応じた配分とするなど、出発点から根本的なはき違えがあった。
 投票成立のための最低投票率を定めず、少数の賛成で容易に承認となる基本的な欠陥も、すでに指摘した。
 投票までの周知期間も最長で百八十日とするのは短すぎるとの声がある。
 公務員の国民投票運動の制限や、資金のある側の主張が有利になる有料放送CMついても、問題点への根本的な対応が放置されている。
 また、内容が関連する事項(条文)についてまとめて投票する規定では、各事項について判断が異なる場合、意思が投票に的確に反映されない問題がある。まぎれをなくすには、個別に投票する方式を採用すべきだろう。
 全体に国民に情報を公平に提供し、いかに正確にその意思を確認するかという基本に照らし、不十分な内容だ。
 法案は国会法の改正案も含み、改憲案の議案提出権を持つ常設の憲法審査会を設置するが、すぐに改憲論議が始まることになろう。
 独自修正案を提出した民主党は、投票権者の年齢や投票対象など、与党案との相違を争点とすることで、法案そのものの持つ欠陥を見えにくくした。
*平和主義が切り崩される
 論点は多岐にわたる。にもかかわらず、数を背景に強行すれば何でも通るという状況は憂うべきことだ。
 これが、安倍政権の下で加速されている。
 国会の現状は、確かに改憲推進派が多数を占める。国民も世論調査で賛否を広く問えば、改憲賛成が多数となるが、平和主義の象徴である九条については慎重論がなお多く、政治との乖離(かいり)が見られる。
 国民投票法案についても、そのずれが示されたと言えよう。
 世論は今国会の優先課題として、この法案を重視していなかった。与党はそれに構わず突破を図った。
 ただ国民の側の関心も十分には広がらなかった。政治にまかせ切り、単なる手続き法案との宣伝に、思考を停止してきた側面はなかっただろうか。
 それが与党の独走を許すことになったとすれば国民の責任も問われよう。
 法案は、自民党の新憲法草案が言う、自衛隊を「自衛軍」として明確に位置づける九条改定に結びつく。
 それは平和主義の足元を切り崩す一里塚の役割を果たすことになろう。
 アジア各国に不安を抱かせるものともなる。
 この法案は、こうした懸念がぬぐえない。成立には反対せざるを得ない。
 
『河北新報』社説  2007年4月13日
国民投票法案採決/修正案対決で信を問えたか
 憲法改正手続きを定める国民投票法案は12日、自民、公明の与党主導により、衆院憲法調査特別委員会で採決された。
 例によって、「審議は尽くされた」とする自民党と「採決は性急だ」とする民主党の主張が激突したが、結局は与党の修正案が可決され、民主党の修正案が否決された。与党案は13日にも衆院を通過する見通し。
 与党修正案は(1)国民投票の対象を憲法改正に限り、国政の重要課題にまで広げる(民主党修正案)ことはしない(2)公務員の政治活動制限を原則として適用し、適用除外(民主党案)とはしない—などの内容で、可決にはそれなりの意味があろう。
 しかし、法案の意義を真剣に考えてきた世論にとって野党抗議の中での採決は後味が悪い。深いしこりを残した与党案可決劇をどうとらえればいいのか。
 まずはっきり言えるのは、両修正案の対決は与党とりわけ自民党と民主党の党利党略のぶつかり合いだったということだ。
 安倍晋三首相は温家宝・中国首相との会談や米・中東歴訪で積極的な首脳外交の演出を目指しながら、内政では、国民投票法案と教育改革関連3法案など重要法案の成立で政権浮揚力をつけ、夏の参院選になだれこもうという意図がありありだ。
 これに対し、統一地方選前半戦の知事選で思うような成果を挙げられなかった民主党はさらなる求心力低下を避けたい。国民投票法案の採決で造反を出さないためには、どうしても独自の修正案を掲げ、与党との対決姿勢を演出する必要があった。
 もう一つ、与党と民主党の対立は憲法改正を視野に置いた国民投票法案必要論という同じ土俵上の駆け引きだったことだ。
 憲法改正は「戦後レジームからの脱却」を唱える安倍首相にとって政治的DNAのなせる業であることは言うまでもない。
 一方の民主党も以前は改憲議論だけ認める「論憲」どまりだったが、2003年には新憲法制定を目指す「創憲」を打ち出した。党内に護憲派はいるが、憲法改正につながる国民投票法案に大枠では反対していない。
 投票法案賛成論の中には、憲法96条が国民投票を定めているのに、その手続き法が整っていないのは立法の不作為だ—との意見があり、この立場に立つ護憲論やマスコミ論調もある。
 しかし、これはいかにも形式論だろう。今回の与党と民主党の2つの修正案の対決を見るにつけ、投票法案はあくまで憲法改正に向けた手続き法案ととらえた方が実態に合っている。
 特別委採決とそこに至る政治的プロセスは、手続き法案の中身の違いを選択肢として示しただけだ。
 共産、社民両党や一定の世論は護憲の立場に立つ。改憲支持の世論が増えつつあるとはいえ、与党も民主党も、依然として重大なテーマに違いない「改憲か護憲か」をめぐって私たちに信を問うたわけではないのだ。
 憲法問題を政局にすべきではあるまい。国民投票法案は参院選に向けた与野党攻防を激しくしそうだが、そうした政治の流れを冷静に見つめていきたい。
 
『東京新聞』社説  2007年4月13日
投票法案可決 時期も運びもむちゃだ
 数にものをいわせて与党が動く。改憲を視野に入れる国民投票法案が衆院の委員会で可決、きょうの本会議採決をへて、与党は大型連休前の成立を目指す。強引な運びは憲法論議をややこしくする。
 自民、公明の多数与党は、次の舞台となる参院でこの法案を「連日のように審議する」構えをとる。十分な議論を尽くすよう求める声や拙速批判をかわす算段だろう。
 とはいえ与党が狙う四月中の成立には、よほどの無理を重ねるしかない。五月の中下旬へのずれ込みも想定されるが、七月改選期へ浮足立つ参院で冷静な法案審議ができるか、甚だ怪しい。
 第一の問題は、憲法改正手続きを定めるという、慎重配慮が求められる法案の採決を、こうした慌ただしい時期に設定したことにある。
 各種の世論調査でも「急ぐ必要はない」とする穏当な意見が多数だというのに、安倍晋三首相が今国会絶対成立の方針を掲げ、改憲を参院選で国民に訴えると力んだことで、政局の材料へ一気に浮上した。
 戦後の枠組み脱却を唱え、在任中の改憲実現を公言する首相が、こんなところで前面に出れば、法案に賛同する勢力も抱える民主党を含め、野党が身構えるのは当たり前だ。
 法案可決にあたって自民党国対幹部らは審議に長時間を費やしてきたことを挙げている。ところが国会の外からは、投票率の下限を定めないと少数の意思で改憲がなされかねない危険性や、テレビ広告などでの資金の潤沢な勢力とそうでない勢力との不公平が指摘されている。
 与党原案に民主の修正要求を相当程度取り入れた法案というが、その中身が国民にどれほど周知されているか、心もとない。そもそも、なぜ慌てるのか、の疑問に、納得のいく答えは示されていないのである。
 公聴会をこなしたといっても、言いっ放し聞きっ放しでは理解が広まるはずもない。そんな段階での数にものをいわせる国会の運びが、多くの国民に受け入れられるとは思えない。問題の第二はここにある。
 安倍政権の強攻策を可能にしたのは衆院の三分の二を超える与党の議席数だ。しかし誤解しないでもらいたい。議席は一昨年の郵政選挙で得られたものだ。総選挙に打って出た当時の小泉純一郎首相は、この手続き法に興味も示していなかった。
 参院の半数も改選を待つ。首相は自前の勢力でやり直してはどうか。
 いたずらな摩擦は慎重・丁寧であるべき憲法論議を粗雑にする。国民の関心を遠ざけ、議論に嫌気させるのが、首相の本意ではなかろう。
 
『信濃毎日新聞』社説 2007年4月13日
国民投票法案 なぜそんなに急ぐのか
 衆院の委員会で与党が国民投票法案を採決した。きょう13日の衆院本会議で可決し、参院へ送る構えでいる。
 なぜいま法律を作る必要があるのか、中身の論議は尽くされたのか−。多くの疑問が積み残されたままである。
 国民投票法は単なる手続き法ではない。憲法改正の方向に影響する。事柄は重大だ。これ以上の無理押しは避けるべきだ。
 与党案については各界から、疑問の声がかねて出されている。例えば全国100人余りの憲法学者が11日に発表した緊急声明を読んでも、抱える問題点が分かる。
 声明は三つの理由を挙げて慎重審議を求めている。(1)最低投票率の規定がない(2)公務員や教育者に対し「地位利用による国民投票運動」を禁じている(3)発議から投票までの期間が「60日から180日」では短すぎる−である。
 例えば投票率が50%の場合、その半数、つまり有権者の4分の1の賛成で憲法は変えられる。最近の各種選挙の投票率を見ても、ごく少ない賛成票で改正される結果を招きかねない。最低投票率の規定が必要、との指摘は重要だ。
 公務員、教育者の運動制限は「表現の自由」にかかわる。幅広い観点からの論議が欠かせない。
 発議から投票までは、改正の是非について論議を戦わせ、考えを深める期間である。例えば150日と決まっている通常国会の会期と比べても「60−180日」で大丈夫か、検討の余地がある。
 各地で開いてきた公聴会では、投票年齢、白票の扱い、テレビCM規制など、多くの問題について疑問や意見が出されている。与野党や国会はこれまで、そうした声に十分こたえていない。聞きっぱなしでは、公聴会の意味も損なわれる。
 法案をめぐる論議は安倍政権になってから、政治の思惑でゆがめられている。在任中の憲法改正を公言する首相が、参院選の争点にする考えも示し、今国会での法案成立を促す。これでは冷静な議論になりにくい。手続き法なのだから粛々と決めるべきだ、と言われても、はいそうですかと聞くことはできない。
 民主党の姿勢にも問題がある。与党案の問題点をえぐり出し、国民の理解を促すよりも、党内の足並みの乱れを表面化させないことにきゅうきゅうとしている。これでは2大政党の名が泣く。
 法案の熟度、取り巻く政治状況。どれをとっても、国民投票法案を成立させるのに適した状況とは言えない。国民の理解も足りない。慎重な対応を与野党に求める。
 
『徳島新聞』社説  2007年4月13日
国民投票法案可決  論議は尽くされていない
 自民、公明両党が提出していた国民投票法案が、きのう衆院憲法調査特別委員会で与党の賛成多数によって可決された。きょうの衆院本会議でも可決され、参院に送られる見通しだ。今国会での成立が確実視されている。
 与党案に対抗する形で民主党が十日に提出したばかりの修正案は、ほとんど審議されないまま否決された。
 与野党が審議を尽くすべき重要法案を、数の力で押し切ったのは遺憾である。法案に対する国民の理解が深まっているとはいえず、拙速は避けなければならない。
 国民投票法案は、憲法改正について国民が直接、是非を判断するための手続きを定めるものだ。与党案は国民投票の対象を憲法改正に限定し、投票年齢を十八歳以上(当面は二十歳以上)としている。
 手続き法とはいえ国の最高法規にかかわる法案であり、与党と民主党は昨年五月にそれぞれ法案を提出し、歩み寄りを模索してきた。共同修正案の提出に向け、年末までに九項目で大筋合意した。
 にもかかわらず対立が激化したのは、安倍晋三首相が今年の年頭記者会見で、憲法改正を夏の参院選の争点にする意向を表明したことに民主党が反発を強めたためだ。与党と民主党は共同修正案を断念し、それぞれが修正案を提出した。
 意見集約が難航している民主党を揺さぶり、参院選で国民投票法案の成立を実績としてアピールすれば、安倍カラーを前面に出すことができる。与党が法案成立を急ぐ背景には、そうした思惑がある。
 民主党内には、法案成立は与党を利するだけとの考えがある一方で、与党案への賛成論もくすぶっていた。民主党が修正案を提出したのは「造反」が出るのを防ぐ狙いもあり、参院選に向けて党内をまとめるための苦肉の策だった。
 論議より党利党略が優先され、政局の駆け引きの材料になったのは残念だと言わざるを得ない。
 冷静に、じっくりと時間をかけて審議してもらいたい。
 これまでの協議が無駄だったわけではない。可決された与党案には民主党との合意内容が取り込まれている。民主党案も与党に歩み寄る内容になっていた。主張の隔たりは徐々に埋まりつつあった。
 ただ、まだ詰めなければならない論点がいくつも残されている。
 国民投票の対象について民主党は、統治機構や生命倫理に関する問題も含めるべきだとしている。代議制の根幹にかかわる問題であり、もっと議論を深めたうえで結論を導き出すべきではないか。
 公務員の国民投票の賛否にかかわる運動についても、与党は制限するとしているが、民主党は制限すべきではないとの立場だ。
 また、国民投票の成立ラインとして最低投票率を設けるべきだとする意見も多い。国民の多数の意見が反映されないまま改憲が決まるのは好ましくないからである。
 法案が成立すれば改憲に向けて次の段階へと移る。自民党が目指す憲法九条の改正は、平和国家としての日本の将来を大きく左右する。
 共同通信社が先月実施した世論調査では、国民の半数以上が国民投票法案に「賛成」だったが、うち七割近くは「今国会成立にこだわる必要はない」と答えている。
 与党は民主党との修正協議を進めるとともに、国民の声をもっと反映させながら幅広い合意形成を目指すべきだ。
 
『高知新聞』社説  2007年4月13日
【国民投票法案】どうなる憲法の重み
 憲法改正手続きを定める国民投票法案の与党修正案が、衆院特別委員会で、野党が採決に抗議する中、与党の賛成多数で可決された。
 来月3日に施行60年を迎える憲法の改正手続き法がなかったのは、改正条件が厳しいことのほかに、国の根幹にかかわる問題という重みがある。
 この観点から与党と民主党の間では話し合い路線が重視されてきたが、憲法改正を今夏の参院選の争点にするという安倍首相発言以来、対決法案の様相が濃くなっている。
 法案は衆院本会議の採決を経て参院に送付されるが、今国会での成立にこだわる国民は少数派だ。拙速は許されない。
 国会における憲法問題の論議は、衆参に憲法調査会が設置された2000年から本格化した。共産党、社民党が改憲そのものに反対するなどこの問題に対する各党の方針は異なるものの、「政局と切り離して審議する」という基本線では共通の認識があった。
 国の基本法である憲法の内容を定める行為は、その時々の社会状況や政党の勢力関係を超えた、普遍的な理念に裏打ちされる必要がある。十分な審議時間と合意形成は不可欠の要件で、政党間で話し合いが重んじられたのは当然のことだった。
 国民投票法案づくりは与党と民主党が主導するようになったとはいえ、対話路線の原則は維持されていた。自民、民主の両理事は昨年12月、法案を共同提案することで大筋合意もしている。
 空気を変えたのは、その後の安倍首相発言だ。年頭会見や施政方針演説で「憲法改正を参院選でも訴えたい」「法案の今国会での成立を強く期待する」と述べたことで、政局絡みの色彩を帯びるようになった。
 法案成立を安倍政権の得点と見なす民主党は、対決色を強める。これに他の野党が同調したことで、審議風景はいびつになった。
 憲法に改正条項があるのに、手続き法がないのは国会の怠慢、との意見がある。その見方を否定することはできないが、憲法という重みを考えると、投票法案には一般の法律以上の慎重さが求められる。
 共同通信社が3月に行った世論調査では、投票法案に賛成の人でも7割近くは「今国会に成立にこだわる必要はない」と回答している。
 世論の動向と先へ急ぐ国会審議との間には、深い溝が存在する。憂慮すべき事態だ。
 
『熊本日日新聞』社説  2007年4月13日
国民投票法案 党利党略透ける強行採決
 国の最高法規に直接かかわる法案の取り扱いとして、これが妥当だったとは言えまい。憲法改正手続きを定める国民投票法案は十二日、衆院憲法調査特別委員会で自民、公明両党の修正案が可決された。民主党など野党の反対を押し切った強行採決である。
 現行憲法は今年五月三日で施行六十周年を迎える。長い間手付かずだった改憲手続きの具体的な整備は立法府の責務ではあろうが、強行採決に踏み切った与党には落胆した。
 対応が迷走した揚げ句に、土壇場で新たな修正案を示してきた民主党も褒められたものではない。与野党双方とも、七月の参院選を控えた党利党略が先に立っているように見える。
 憲法九六条は改憲規定として、衆参両院の三分の二以上の賛成による発議と、国民投票による過半数の賛成を定めている。
 自公修正案はこれを受け、投票権者を十八歳以上、「過半数」の分母を投票総数とするなど、国民投票の実務を定めたものだ。法の施行は公布の三年後。その間は改憲作業に入らないとの規定も盛り込まれている。
 衆院特別委では、自公と民主がそれぞれ法案を提出した昨年五月以降、共同修正に向けた協議が重ねられてきた。自公修正案は民主案の内容も一部取り入れており、さらに協議を尽くすことで、共同修正は不可能ではなかったろう。
 ところが、一月に安倍晋三首相が今国会中の法案成立に強い期待感を表明したことを機に自民が審議を加速。参院選を控え、野党も安倍政権の実績となることを嫌ったことから、対決色が強まってしまった。
 ただ、国民が国政への賛否を表明する参院選前に、なぜこの法案の処理を急ぐ必要があるのか、説得力のある説明はない。選挙で与野党が論戦を交わすことも選択肢の一つのはずだ。
 法案は十三日の衆院本会議で可決、参院に送付される見通しだが、参院選を控えて日程が限られている今国会にはほかにも重要法案が山積している。
 参院でも性急な審議が進められるのでは、憲政史上の重要法案に傷をつけることにならないか。ここはまだ、与野党がお互いに知恵を絞る場面だ。
 
『沖縄タイムス』社説  2007年4月13日
[国民投票法案採決]論議尽くしたとは言えぬ
 自民、公明両党は、衆院憲法調査特別委員会で審議していた国民投票法案の与党修正案を採決し可決した。
 十三日の衆院本会議でも可決する方針を打ち出しており、同法案は今国会中に成立する見通しだ。
 特別委における自民党理事と民主党理事の修正協議が決裂した結果だが、国民にとっては「双方の修正案そのものに十分な説明がない」のは言うまでもない。
 つまり、与党案も民主党案も国民の間に浸透していないのである。なぜもっと時間をかけて理解を得ようとしないのか、疑問と言うしかない。
 採決は、安倍晋三首相が強調した「憲法記念日(五月三日)までの成立」を目指す動きと軌を一にしている。
 だが、共同通信社やNHKが行った世論調査では「今国会での成立にこだわる必要はない」「今国会にこだわらずに時間をかけて議論すべき」という声が七割を超えている。
 であれば、修正案を双方がきちんと詰め、国民に説明していくことだ。
 手続き法とはいえ、憲法改正にかかわる法案は国民への周知徹底が大前提になる。国民の理解を得ぬまま単独採決したのでは、将来に禍根を残す。
 衆院を通過し成立しても、与党への不信が募れば議会制民主主義の理念を損ねる恐れも懸念される。
 ここはいま一度原点に立ち返り、審議に時間をかける必要があろう。
 与党修正案は(1)国民投票の対象は憲法改正に限定(2)投票年齢を「二十歳以上」から「原則十八歳以上(当面は二十歳)」に変更(3)公務員や教育者の、便益を利用した運動禁止(4)改憲案審議は三年間凍結—などが主な内容だ。
 民主党案の一部もこれまでの協議で盛り込んでいる。
 だが、憲法第九六条は「この憲法の改正は、各議員の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」と記している。
 そして「この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とある。
 自公案、民主党案には憲法改正手続き法案の成立に必要な最低投票率の制度が記されていない。憲法学者が懸念する理由の一つであり、論議を深めていく必要がある。
 憲法にかかわる問題である。審議し過ぎるということはない。会期中の成立にこだわらず、徹底的に論議し国民の疑問を払拭することだ。それが国会の責務だということを肝に銘じてもらいたい。
 
『日本経済新聞』社説  2007年4月13日
国民投票法案の衆院可決は当然だ
 今国会の重要法案である憲法改正手続きを定める国民投票法案が衆院憲法調査特別委員会で、自民、公明両党の賛成により可決された。13日に衆院本会議で可決され、参院に送付されて今国会で成立する見通しである。法案の性格上、民主党も賛成して可決することが望ましかったが、そうならなかったのはむしろ民主党の党内事情のせいであり、与党の採決は当然である。
 国民投票法案は憲法改正の是非とは直接関係のない中立的なルールを定めるものであり、自民、民主、公明3党間に大きな考え方の違いがあるわけではない。3党はかつて共同提案をめざし時間をかけて協議を続けてきた。これに待ったをかけたのは与党との対決を重視する民主党の小沢一郎代表である。
 昨年の国会には与党案と民主党案が提出され、年末には3党が共同修正でいったん合意しかけたが、民主党は最終的に小沢代表の判断で与党案に反対する態度を決めた。7月の参院選をにらんで与党との対決路線を優先し、社民党などとの野党共闘を重視した結果である。
 民主党は憲法改正以外の一般的な国政テーマについても国民投票制度を導入すべきだと主張した。このような主張は憲法改正手続きとは切り離して別途検討すべきであり、簡単に結論の出る話ではない。この問題以外は与党案に民主党の主張が大幅に取り入れられており、内容的にも特段問題はない。むしろ、自民党内には民主党に譲りすぎたという不満がくすぶっているほどである。
 安倍晋三首相は国民投票法案を今国会の最重要法案と位置づけ、その早期成立に強い執念を見せてきた。戦後体制からの脱却を掲げ、5年後をめどに憲法改正の実現をめざす安倍首相にとって同法案の今国会成立は譲れない一線である。法案成立を参院選に向けた政権の実績にしたいとの狙いも込められている。
 国民投票法案は憲法96条の改正手続きを具体化するものであり、本来なら現行憲法が施行された60年前に同時に制定されるべきものであった。憲法を制定・改正するのは主権者国民の固有の権利である。この重要な国民の権利を60年間も実質的に封じ込めてきた国会と政治の怠慢はあきれるばかりである。
 遅きに失した感はあるが、ようやく国民投票法案が成立に向かって動き出したことを歓迎したい。衆院特別委での審議と自公民3党の協議によってすでに論点は出尽くしており、参院は速やかに審議を進めて早期成立を図るべきである。
 
『北國新聞』社説  2007年4月13日
◎国民投票法案可決 一本化断念はやむなし
 衆院憲法調査特別委員会で、憲法改正手続きを定めた国民投票法案の与党修正案が可決された。民主党も必要性を認めて同様の法案を提出していることから、私たちは法案を「政争の具」とせず、与野党調整で一致点を見いだす努力を期待してきたが、今夏の参院選をにらみ、法案審議がいわゆる「政局」の色彩を帯びてきたのは残念である。法案の採決に必要な公聴会も終えており、与党が一本化調整を断念して採決に踏み切ったのはやむを得まい。
 いまの憲法には、憲法改正の規定はあるものの、実際に改憲の国民投票を行う時の具体的な手続きを定めた法律がない。国民投票法はそうした憲法の不備を補うものであり、憲法改正の是非とは直接関係がない。共産党や社民党が「憲法改正につながる」などといって、いわば政治の怠慢をただすことを意味する法整備に反対しているのは不可解である。整備されて当たり前の手続法が“重要法案”と目されること自体がおかしいといえる。
 与党も民主党も当初は、真正面から対決するような法案ではないとの認識に立ち、円満な成立をめざして法案の修正協議を続けてきた。しかし、参院選が近づくにつれて与野党の思惑がぶつかるようになった。早期成立で得点を稼ぎたい自民党と、それを阻止したい野党という具合に対決姿勢が強まったのである。
 独自の法案を出した民主党が、法案に反対の社民党などとの共闘を優先させたのは選挙を意識してのことであろうが、政治決戦を前に、与野党の国会対応が政局絡みになるのも無理からぬ面がある。となれば、いたずらに審議を延ばさず、必要な手順を踏んで最後は粛々と多数決で決めるのが国会の本分であろう。
 特別委で可決された国民投票法案は、これまでの修正協議で一致した点が盛り込まれ「民主党案と95%同じ」といった見方が与党内にある。法案が成立しても憲法改正にすぐ結びつくわけではなく、法案には国会の改憲案審議を三年間凍結し、憲法調査会はその間、調査に専念すると規定されている。与党の側に憲法改正のエネルギーが本当にあるのかどうか疑問であり、急(せ)いたわけにはいかないのが現実の姿なのである。
 
『毎日新聞』社説  2007年4月13日
国民投票法案 手続き法でこの有り様では
 憲法改正の手続きを定める国民投票法案の与党修正案が12日、衆院憲法調査特別委員会で可決され、13日に衆院を通過する見通しとなった。
 国の基本法規である憲法を改正すべきかどうか。その民意を問う方法を定める重要な法案だ。それだけに私たちは社説で少なくとも与党と野党第1党・民主党との合意が不可欠だと再三指摘してきた。今回、混乱の中で可決されたことは極めて残念だ。
 自民・公明両党と民主党との修正協議は、投票年齢を18歳以上とするなど与党が民主党案の一部を受け入れ、昨年暮れには合意寸前まできていた。双方の担当者の間では「政局的な思惑を絡めない」という了解もあったという。
 それが決裂したのはなぜか。今年1月、安倍晋三首相が憲法改正を参院選の争点とする考えを表明し、野党との対決をあおったのがきっかけだ。首相は在任中に改憲を実現させたいという。その前段として国民投票法案を成立させ、「安倍カラー」をアピールする。そんな狙いがあるのは明らかだ。
 一方の民主党の対応も理解しがたい。独自の修正案を出したのは参院選前に与党との対決ムードを演出したいだけではない。党内には改憲に積極的な議員も多く、単に与党案に反対するだけでは造反者が出る可能性がある。そこで改憲手続き法自体には反対ではないことを示す便法として否決を承知で独自案を出したというのだ。
 独自案は国民投票の対象を「憲法改正関連、統治機構、生命倫理その他」に広げる点が与党案との大きな違いだ。
 しかし、こうした国民投票は間接民主主義を原則とする現憲法との整合性がとれないとの指摘があるのも分かっているのだろう。施行までの間、この整合性について検討するとの付則も加えた。「対象拡大が絶対に必要だ」と腰がすわっているようには到底思えず、「与党と合意せず」の結論が先にあったとみるほかない。
 これを主導した小沢一郎代表に対しては党内に批判がある。かといって党の正式な会議で激しい議論をするわけでもなく、不満だけがたまる。いつものパターンだ。
 首相や民主党の政治的思惑が先行した結果、肝心の審議はおざなりとなり、詰めるべき点が残っていることも指摘しておく。
 例えば、与党案では投票日2週間前からテレビ・ラジオの有料広告放送を禁止しているが、表現の自由の観点から問題はないか。
 最低投票率を定めるべきだとの意見もある。低投票率になった場合、有権者全体では決して多数とはいえない人たちの賛成で改憲されるのを懸念したものだ。私たちはまず投票率アップに力を注ぐべきだと考えるが、最低投票率を設けない点についても、もっときちんと理解を求める必要があろう。
 参院審議も同じように進むのだろうか。だが、手続き法案でこの「政局優先」の有り様では、冷静な改憲論議などおよそ期待できないということになる。双方、もう少し頭を冷やしたらどうか。
 
『西日本新聞』社説  2007年4月13日
与党案になお疑問あり 国民投票法案
 憲法改正に関する国民投票法の与党修正案が、衆院憲法調査特別委員会で可決された。きょう本会議でも可決され、参院へ送付される見通しだ。
 「審議は尽くされていない」とする野党の抵抗を押し切って委員会採決を強行した与党は、このまま今国会中の法成立へ突っ走るつもりのようだ。
 しかし、法案の中身にはなお釈然としない部分が残っている。
 昨年末、与党と民主党の間で法案修正に関する大筋合意が成立していたにもかかわらず、結局は双方がそれぞれが修正案を提出し、全面対決する形になったことも不自然だ。
 憲法改正という重大事を問う国民投票のルールがこのまま決まってしまうことには、強い懸念を表明せざるを得ない。
 与党の修正案は、当初案に盛り込まれていたメディア規制がほぼ全廃されるなど、一定の改善がみられることは認めていいだろう。だが、論議が尽くされたとは言い難い。
 与党修正案は、公務員の政治活動の制限を、国民投票についても原則適用することを盛り込んだ。
 一方、否決された民主党の修正案は、賛否の呼びかけなどの自由を優先する立場から、適用除外とした。
 公選法に基づく選挙なら公務員の運動に制限は必要だろう。だが、国民投票にまで規制を適用すべきかとなると、議論の余地があるはずだ。
 衆院憲法調査特別委が都合4回開いた公聴会では、国民投票が一定の投票率に達しない場合、投票自体を不成立とする「最低投票率制度」の導入を求める意見も目立った。
 与党案にも民主党案にもないアイデアだが、憲法改正の可否に関する国民多数の意思をより厳密に反映させる意味で、検討に値するのではないか。
 こうした疑問を残したまま、与党が数の力で押し切ることは許されない。
 当初、民主党との共同修正を目指していた与党が単独修正に踏み切った背景に、安倍晋三首相の意向があることは間違いない。
 憲法改正を参院選の争点に掲げる考えを表明した首相としては、今国会中に国民投票法を成立させ、改憲ムードを高めたいのだろう。
 首相の争点づくりに乗りたくない、とばかりに修正協議拒否に転じた民主党にも、参院選へ向けて自民党との対決姿勢を演出する計算があるようだ。
 選挙をにらんだ与党と野党第一党の政治的駆け引きのあおりで、結果的に与党だけで憲法改正手続きのルールを決める事態は異常だ。
 今からでも遅くはない。与党は強硬方針をあらため、野党側と冷静に議論できる環境の回復に努めるべきだ。
 それに併せて、法案の再修正も検討してしかるべきだろう。
 
『山陽新聞』社説  2007年4月12日
国民投票法案 与党は力で成立を急ぐな
 憲法改正の手続きを定める国民投票法案をめぐる動きが急だ。自民、公明両党が与党修正案を十三日にも衆院通過させる構えの中で、十日には民主党が独自の修正案を国会に提出して対決姿勢を明確にした。
 昨年五月に与党と民主党の双方が法案を提出、一本化への修正協議が進められた。しかし、安倍晋三首相が今年の年頭会見で首相在任中に憲法改正の実現を目指すとともに、七月の参院選の争点とする考えを示したことから民主党が硬化した。与党は民主党案の一部を取り入れた修正案を三月に国会に提出し、民主党の賛同を求めていた。
 双方の修正案を見比べると歩み寄りと相違点を示す苦心ぶりがうかがえる。与党修正案で、憲法改正に限定した投票の対象について、民主党は原案では「国政の重要問題も含める」と抽象的だった中身を「憲法改正の対象となり得る問題」や「統治機構」など四項目に絞り込み、差異を残しながら与党に一定の歩み寄りを示した。
 与党が民主党の主張を入れて原案の「二十歳以上」から「十八歳以上」に改めた投票年齢では、民主党の修正案も「十八歳以上」とした。だが、与党が設けた公職選挙法などの改正までは二十歳以上に据え置くとの経過措置は盛り込まず、施行とともに十八歳以上とする。
 歩み寄りと相違点の間には参院選をにらんだ双方の激しい駆け引きが見え隠れする。与党は民主党の言い分を入れることで民主党内に揺さぶりを掛ける。対する民主党は、党内の足並みの乱れを防ぎ与党との対決を示すため与党修正案に近づけつつ違いをにじませた。
 手続き法とはいえ、国家の根幹をなす憲法の行方につながる重要な法案である。国民の意見が、広く正確に反映できることが欠かせない。双方の修正案には疑問な点や、さらに論議を深めるべき問題が多い。例えば、過半数の定義は与党、民主党ともに賛成票と反対票を合計した有効投票総数の過半数としている。最低投票率についても双方ともに触れてはいない。ハードルが低いといわざるを得ない。国民の声をどう反映するかの正当性が問われよう。
 第一、なぜこれほどまでに急がなければならないのか。共同通信社が三月に実施した全国電話世論調査では、国民投票法案に賛成の人たちでさえ67・5%は「今国会での成立にこだわる必要はない」としている。
 与党の数の力にまかせた拙速は避けなければ、将来に大きな禍根を残すことになりかねない。
 
『神戸新聞』社説  2007年4月11日
国民投票法案/採決に走るときではない
 
  国民投票法案をめぐる与野党の攻防が山場を迎えつつある。自民、公明両党が与党修正案を週内に衆院通過させる構えを見せているのに対し、民主党は十日、独自の修正案を国会に提出した。
  七月の参院選もにらんだ動きだろうが、ここは与党に慎重な対応が求められる。野党側から修正案が示される中、強引な採決は行うべきではない。
  この法案には、憲法改正の具体的な手続きが盛り込まれる。国の根幹にかかわる重要な法律であり、本来、党派の思惑などから離れて論議すべきものだろう。政局に左右されるようなことは好ましくない。
  与党と民主が協議を重ね、昨年末に投票年齢などで実務者間の合意に至った経緯の中では、そうした配慮がうかがえた。
  ところが、安倍首相が年頭会見で「私の内閣で憲法改正をめざしたいということは当然、参院選でも訴える」と述べたあたりから、流れが変わった。首相は、今国会で国民投票法案の早期成立を図るよう指示している。夏の政治決戦に向け、「戦後レジーム(体制)からの脱却」を示す実績を上げたいということだろう。
  最近では、与党と民主の攻防は、法案の内容より党利党略の方が先に立っている感がある。これでは、あるべき姿から遠い状況といわざるを得ない。
  衆院採決をめざす与党は、審議は尽くしたという。しかし、問題は費やした時間数ではあるまい。肝心なのは、国民の考えが正しく反映する、公平・公正な制度設計ができているかどうかである。
  民主は修正案で、投票の対象として憲法改正に加えて「統治機構」や「生命倫理」などを列挙した。先の衆院憲法調査特別委の中央公聴会では、最低投票率の導入などが公述人から示された。法案に反対する共産、社民両党の意向なども含め、なお検討すべき課題は残っている。
  国民の理解が十分に深まったとも思えない。法案そのものには賛成するが、今国会での成立にこだわる必要はない-こんな回答が七割近かった共同通信社の最近の調査でも、それがうかがえる。
  国民に開かれた形で、さらに論議を深めるという意味では、党首討論で取り上げてもいい。「国家基本政策委員会」という名称にふさわしいテーマだろう。先日、与党が十八日に党首討論を開くよう提案している。よい機会だ。野党側は受けて立ち、堂々と意見を戦わせたらどうか。
  いずれにせよ、拙速に事を進める姿勢だけは避けなければならない。
 
 
『北海道新聞』社説  2007年4月11日
国民投票法案*欠陥は解消されてない
 
  「単に手続きを定める中立的な法案」という言い方は、もう通用しなくなっているのではないか。
  自民、公明両党は先月末に、改憲への民意を問うための国民投票法案の与党修正案を提出した。それから半月ばかりで、十三日には修正案の衆院通過を与党単独でも図る構えだ。
  民主党も独自修正案を提出したが、与党修正案は、民主党の主張を大幅に取り込む形で強引に決着を狙う。
  議論を尽くすより、とにかく成立させステップを次に進めようとする、本末転倒の展開と言わざるを得ない。
  これだけ性急に事を運ぶのは、安倍晋三首相が自衛隊を「自衛軍」として明確に位置づける自民党の新憲法草案を念頭に、夏の参院選の争点に改憲を据えているからだろう。
  そのための一歩として、法案はすでに具体的改憲日程と結びついている。
  世論が今国会で優先課題としているのは、年金、医療、福祉などであり、それを後回しにした「安倍カラー」の改憲手続き法案ではない。首相の選択は、国民から遊離した唯我独尊とも言える。
  法案をめぐってはこれまで、与党案と民主党案の調整の行方ばかりが取りざたされてきたが、問題は駆け引きや妥協の成否ではない。
  肝心なのは中身だ。基本に立ち戻って、あらためて考えたい。
  例えば極めて大きな問題として、両案とも一定の投票率に達しない場合に投票を無効とする「最低投票率」を定めようとしていない点がある。
  改憲という、国の形を変える大切な決定は、国民的な関心の高まりがあって初めて実現されるべきことだ。
  だから、改憲の発議にも衆参各議院の総議員の三分の二以上の賛成を必要とし、さらに国民の直接の承認を得るという厳しい要件が定められている。
  しかし両案は、いくら投票率が低くてもいい。仮に投票率50%なら、その過半数である投票権者の四人に一人の賛成で、いとも簡単に改憲が実現する仕組みだ。決して公正な手続きと言えず、国民意思の軽視にほかならない。
  それは、自由な国民投票運動を教員や一般公務員に対しても制限しようとする与党案の発想にも表れている。
  まして国会は説明努力を十分果たしてきたとは言い難い。このため法案への国民理解は現段階でまだまだ低いとみられるのに、それに構わず政党間の議論だけで突き進もうとしている。
  公正性を疑わせる規定はこれだけではない。このまま採決を強行しても、国民の納得は得られず、国会と世論との意識のずれはさらに広がることになるだろう。
  国の基本である憲法の改定が、欠陥をはらむ手続き法に左右されることがあってはならない。
 
『信濃毎日新聞』社説  2007年4月11日
国民投票法案  急ぐ必要はどこにもない
 
  憲法改正の手続きを定める国民投票法案をめぐり、対決ムードが高まってきた。与党は13日にも衆院本会議で採決する構えでいる。

  憲法論議の方向を左右する大事な法律である。参院選をにらんだ政局絡みで臨むのは望ましくない。与野党とも頭を冷やし、腰を据えて論議を深めるべきだ。

  自民・公明の与党案と民主党案との違いは、これまでの協議により、かなり狭まっている。▽投票年齢は18歳からとする▽法律が成立してから3年間は改憲案審議を凍結する−などが固まった。

  ここへきて対決ムードが高まった一因は安倍晋三首相にある。持論とする憲法改正に向け、国民投票法案を今の国会で成立させる意向を打ち出した。改憲を参院選の争点にする考えも示している。

  対抗するかのように、民主党の小沢一郎代表は与党との修正協議に消極姿勢に転じた。社民党など改憲に反対するほかの野党との共闘が念頭にあるとみられている。

  憲法改正は時々の政治情勢から一定の距離を置き、冷静に議論すべきテーマである。首相や小沢代表の姿勢は問題を残す。

  そもそも国民投票法案は、採決のタイミングを探らなければならないいほど中身が煮詰まっているのだろうか。答えは「ノー」だ。検討すべき点がたくさん残っている。

  例えば公務員に対する国民投票がらみの活動制限である。与党案に盛り込まれている条項の解釈によっては、大学の教師が講演会で意見を述たり、メディアの求めに応じて評論を寄稿することも制約を受けかねない。憲法が保障する「表現の自由」に照らし問題が大きい。

  与党案、民主党案の両方に盛り込まれているテレビの有料CM制限条項も、引き続き論議が必要だ。CM規制は表現の自由を損なう、とする見方の一方、カネに物を言わせた大量CMで民意がゆがめられる心配も否定しきれないからだ。

  最低投票率規定は必要ないか、投票年齢は18歳で本当にいいか、投票は改正の条項ごとか一括か…。こういった論点も未消化のままだ。

  憲法改正の発議には、衆参各院で総議員の3分の2以上の賛成を必要とする。国会が改正に向け動くときは、国民投票法も大きな支障なく制定できるはずだ。いま急ぐ必要はまったくない。

  共同通信社の最近の世論調査では、国民投票法案に「賛成」する人は半数以上を占めるものの、そのうち7割近くは「今国会での成立にこだわる必要はない」と答えている。国民の方がずっと冷静である。

『中国新聞』社説  2007年4月11日
国民投票法案  「党利党略」ばかりでは
 
  本当に採決の環境は整ったのか。与党は、憲法改正の手続きを定める国民投票法案の与党修正案の衆院通過を今週中にも図る構えだ。安倍晋三首相の今国会で必ず成立させようとする気負いには危うさを感じる。
  民主党は修正案をきのう国会へ提出した。国の根本にかかわる問題のうえに、双方の修正案には疑問点が残る。徹底的な審議が不可欠で、拙速を避けるべきだ。
  民主党の修正案は国民投票の対象として、憲法改正だけでなく、「憲法改正の対象になり得る問題、統治機構、生命倫理に関する問題」などと明記。憲法改正だけに限る与党案と大きく異なる。
  公務員の「政治的行為の制限」も運動をすることができるに変更、制限する与党案に対抗した。テレビなどの有料意見広告は与党案の「投票二週間前から禁止」に対し、民主党案は「発議から投票まで禁止」としている。情報操作を防ぐには禁止期間は長い方が望ましい。だが、メディアの自主規制に任すのがいいのか、意見は分かれるだろう。
  問題とされる最低投票率については民主党案も触れていない。憲法九六条に定める有効投票数の過半数の賛成で成立する。国民が投票することが第一なのだが、憲法の問題が国民のほんの一部の投票で決定する懸念は解消されない。
  民主党は与党と同法案の修正協議を進めていた。ところが安倍首相の今国会で成立させ、憲法改正を参院選でも訴えるとの表明から、対立が決定的になった。
  与党が統一地方選前半戦を乗り切り、法案の採決を先送りする理由がなくなったとする見方がある。参院選の争点にすることで、民主党内の分裂などを引き起こせる。勝てれば、国民の合意が得られたとして走れるとの読みがあるのか。民主党の修正案も、党内から与党案に賛成する「造反」を防ぐ戦術なのかもしれない。
  最重要の憲法問題が党利党略に使われているとしたら許し難い。
  審議は尽くしたと自民党役員は強調する。しかし、衆院憲法調査特別委員会が中央と地方で開いた公聴会では、与党推薦の公述人をはじめ、多くが法成立に向けた強引なやり方に危惧(きぐ)を示した。
  手続き法とはいえ、国民投票法案が可決、成立すれば、次の段階へ進むだろう。戦後日本の平和と繁栄に寄与した憲法を変えようと既成事実が重ねられていくのは、なんとしても避けたい。
 
『佐賀新聞』論説  2007年4月11日
国民投票法案  このままでは通せない
 
  憲法を改正する手続きを定めるため、新たにつくる「国民投票法」案で、自民党は今週13日にも衆院本会議で採決する構えだ。審議は大詰めを迎えた。しかし、改正に必要な投票の「過半数」定義で疑問が消えないなど問題を積み残したままだ。

  改憲手続きで憲法96条には「各議院の3分の2以上の賛成で発議し、国民投票でその過半数の賛成を必要とする」とある。つまり、過半数の賛成が得られるかどうかが、憲法を変えるためには必ず求められる条件だ。だが、いずれの過半数かは書かれていない。つまり分母部分は何なのかという問題である。

  与党修正案では「白票は無効票とし、有効投票総数の過半数の賛成で成立」することになっている。ここでは「有権者の過半数」とすることや「無効票を含めた投票総数の過半数」とすることもあり得た。改正のためのハードルとしては最も低い方法が選ばれたわけだ。

  法案には最低投票率の規定がない。このため仮に投票率が50%だった場合、全投票権者の半数の過半数、つまり4分の1の賛成で憲法が改正される。これは白票がゼロとしての場合で、白票は無効票なのだから、もっと少ない賛成で改正に至る。

  憲法改正は高度な判断力が必要で、「分からない」「どちらとも決めかねる」という白票も当然多いことが予想される。だが現状では白票の扱いや、最低投票率規定はいらないのかなど、納得いく論議にはなっていない。

  与党修正案はまた「公務員、教育者の地位利用による国民投票運動の禁止」については、原案にあった罰則をなくした。だからといって問題が解決したわけではない。

  確かに国家公務員法や地方公務員法は政治的行為の制限を定めている。しかし、憲法をどのようにするかは国家の基本法に関することであり、公務員だろうが、主権者として意見表明を広く保障するということが原則であるべきだと思う。

  5日に開かれた中央公聴会でも国民投票運動を公務員や教職員が制限されている「政治的行為」の対象にするかどうかに関して、対象とすべきでないとの意見が相次いだ。

  それは「主権者としての運動は原則自由であるべきだ」「職務時間以外は一般の国民だ」などというものだった。

  また「地位利用」とは、何を指すのかが不明確なため、自主規制へとつながると危惧(きぐ)する声がある。公務員の運動禁止条項は外されてしかるべきではないか。

  自民党は12日に衆院憲法調査特別委員会で与党修正案を採決、13日の衆院本会議で可決、参院に送付し、今国会中の成立を目指している。

  安倍晋三首相は、在任中に憲法改正を実現すると公言、施政方針演説でも、「国民投票法案の今国会での成立を強く期待する」と述べており、今国会中に成立する見方が強い。

  これまでの法案論議は、当初の与党案から新聞などの報道をめぐるメディア規制条項が削除され、投票権者の最低年齢も20歳から18歳に引き下げられるなど、一定進んできたことは認める。

  しかし、過半数条項、公務員の国民投票運動へのかかわりへの制限のほかにも、改正の賛否に関する新聞、テレビなどの広告に法的規制をかける条項の妥当性が問われている。国民投票法案は国の行方を左右する憲法改正へ直結する法律であるのに論議は尽くされていない。このまま採決するのは反対だ。(上杉芳久)
 
『岩手日報』論説  2007年4月 8日
国民投票法案  冷静な審議できるのか
 
  憲法改正手続きを定める国民投票法案の与党修正案が自民、公明両党から国会に提出され、審議が進められている。
  修正案は▽投票の対象は憲法改正に限定▽投票年齢は原則18歳以上。選挙権年齢が引き下げられるまでは20歳以上▽3年間で選挙権なども18歳以上に引き下げ▽改憲案審議は3年間凍結−などが柱。
  民主党と合意した内容をほぼ取り込んだが、国民投票の対象については民主党が国政の重要問題まで範囲を広げた一般的国民投票を主張したのに対して与党原案を貫いた。
  また「公務員、教育者の地位利用禁止」については罰則なしとする一方、自公民3党で合意した国家公務員法や地方公務員法上の「政治的行為の制限規定」を「国民投票では適用しない」とする方針を転換し「適用除外」の条文を削除した。
  これらの案で与党は5月中の成立を期す構えだが、なお議論の余地を残す問題点がある。
  どうする最低投票率
  まず気になるのは、一定の投票率を下回った場合は投票無効になる最低投票率の規定がない点だ。一定の歯止めがないと国民の多数が賛否を明らかにしないまま、少数の有権者の賛成だけで憲法改正が行われてしまう事態が想定される。
  衆院憲法調査特別委員会が3月末に開いた地方公聴会では与党推薦の陳述人が「国会での発議に高いハードルがあり、最低投票率を設ける必要はないのではないか」と述べたのに対して野党推薦の陳述人からは「少数の意思で憲法改正が行われてしまう」「議員の3分の2が賛成しても国民の意思は体現されない」などの意見が相次いだ。
  また改憲が成立する「過半数」をどう解釈するかも微妙な問題だ。与党修正案は「有効投票総数の過半数」としているのに対し「投票総数の過半数」などの意見もある。
  メディア規制について、修正案では「テレビ・ラジオの有料広告は投票14日前から禁止」とされた。
  当初の与党案で出されたメディア規制は撤回されたが、日本新聞協会などは新聞などメディアに対するあらゆる法規制に反対する立場を表明している。憲法改正に関する公正で的確な情報を伝えてこそ国民の知る権利は守られる。
  幅広い理解と支持を
  安倍内閣は昨年9月の発足以来、タウンミーティングでのやらせ質問が問題になった教育基本法改正や防衛庁の省昇格などの重要案件を矢継ぎ早に手がけてきた。
  後半国会では国民投票法案と教育改革関連3法案の成立を優先し、国民投票法案については与党単独でも13日の衆院本会議で通過を目指している。
  なぜそんなに急ぐのか。夏の参院選を前に与野党が対決姿勢を強めているこの時期に法案成立を急ぐ理由はどこにあるのか。わが国の憲法は1947年の施行以来改正されていないが、常に論議の的となってきた。それだけにより冷静で慎重な審議が必要だ。
  憲法九六条は憲法改正のために「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」と定め、通常の法律の制定や改正より条件が厳しい。
  その意味でも改憲の具体的な手続きを定める国民投票法案は国民の幅広い支持が求められる。検討課題を残したまま、最後に数の論理で押し切っては国民の納得が得られるとは思えない。  
小笠原裕(2007.4.8)
 
『朝日新聞』社説  2007年4月7日
国民投票法—与党だけで押し切るな
 
  憲法改正の是非を問う国民投票をどのような形で行うか——。そのやり方を定める国民投票法案をめぐって、与野党の対決ムードが高まってきた。
  安倍首相は、憲法改正を自分の内閣で政治日程に乗せると明言している。今年1月には、7月の参院選挙で争点として国民の判断を問う考えまで示し、意欲をみなぎらせた。
  国民投票法はその機運を盛り上げるための欠かせない一里塚であり、この国会でなんとしても成立させる最重要法案という位置づけだ。与党単独でも衆院で採決する構えを見せている。
  法案の成立が政権の参院選対策の柱になるとしたら、野党が身構えるのは当然のことだ。政権側が意気込めば意気込むほど、この法案の審議は憲法改正そのものへの賛否と密接に絡み合ってしまう。
  この問題では与党の自民、公明両党と野党第1党の民主党が、2年前から議論を重ねてきた。憲法改正が政治争点化する前の静かな環境の中で、公正中立なルールを作ろうという発想だった。
  安倍政権の短兵急な姿勢はこの流れをひっくり返すものだ。
  国民投票法案は、単なる手続き法ではない。国のおおもとを定める憲法を変えるかどうか、その時に民意をどう問うかという極めて重要な法律だ。憲法改正と同じように幅広い合意をもとにつくるべきである。多数を握る政権が、目前の選挙への思惑などから突っ走っていい課題ではないはずだ。
  憲法施行60年になるが、国民投票のやり方を定める法律はつくられなかった。それ自体が改憲への道を開く、とする護憲の世論が強かったからである。今回その法案づくりの話が進んだのは、憲法をめぐる世論が多様化していることを反映したものだろう。
  手続き法がないという不備はいずれ埋める必要はあるし、民意をどうはかるかという冷静な議論が衆院憲法調査特別委員会などで繰り広げられたのは意味のあることだった。
  自民党にすれば、すでに時間をかけて議論し、民主党案も一部とり入れて譲歩もしたということだろう。だが、露骨に選挙を絡めた首相のやり方は、そうした積み上げを台無しにしかねない。
  民主党にも、参院選に向けて対決を演出する材料にしたいとの計算が働く。党利党略がぶつかる不幸な展開だ。
  国民投票法案の中身には、何をもって過半数とするのか、最低投票率の規定を設けるかどうかなど、まだまだ議論すべきことがある。
  国民の関心自体も決して高くない。どれだけの人がこの法案について具体的な知識を持っているか、はなはだ怪しいものがある。
  このまま、与党だけで見切り発車するとなると、憲法をめぐる今後の議論に大きな禍根を残すことになる。冷静な環境のもとで、じっくり審議すべきだ。
 
『河北新報』社説  2007年4月3日
国民投票法案/政争の具にすべきではない
 
  本来、冷静に粛々と議論し、その過程を国民に周知し、理解してもらうのが筋だろう。今、とてもそんな状態にあるとは思えない。
  党利党略が走り、政争の具と化しているのは、誠に不幸だと言わざるを得ない。
 
  自民、公明の両党は、憲法改正手続きを定める国民投票法案の与党修正案を衆院憲法調査特別委員会に提出、同委員会で審議が始まった。
  両党は、法案について、13日の衆院通過、5月中の成立のスケジュールを描いているようだ。
 
  安倍晋三首相が「戦後レジーム」からの脱却の大きな柱として、今夏の参院選の争点に「憲法改正」を掲げ、今国会での国民投票法案の成立を最優先課題としたためだ。法案の成立で得点を稼ぎ、参院選を有利に進める思惑があるのだろう。
 
  国民投票法案をめぐって民主党内に賛否両論があることから、揺さぶりをかけ、分断する狙いも見え隠れする。
  事実、民主は小沢一郎代表や菅直人代表代行らが民主党案を丸のみしない限り反対の姿勢を示す一方、鳩山由紀夫幹事長らは「中身には反対できない」と割れている。
 
  国民投票法案については、共産、社民両党が憲法改正につながるとして反対してきたが、与党と民主は合意を目指し、協議を続けてきた。
  それがご破算になるのは、与野党が激突する統一地方選や参院選と絡んでおり、法案審議に今は最もふさわしくない時期に当たろう。
 
  加えて、与党の修正案に、疑問や懸念される点も見うけられる。修正案は(1)投票対象は憲法改正に限定(2)投票年齢の18歳への引き下げ(3)改正は、有効投票総数の2分の1を超えた場合(4)両院に設置する「憲法調査会」での改憲審議は公布後3年は行わない(5)改正原案の発議は内容に関連する事項ごとに行う—などだ。
 
  このほか、公務員、教職員の地位利用による投票運動の禁止や、テレビなどの有料スポットCMの投票期日2週間前からの禁止などが盛り込まれた。
  疑問の第一は、最低投票率が示されていないことだ。憲法改正発議が衆参両院での3分の2以上というハードルが設定されており、最低投票率の規定は必要ないという意見もあろうが、仮に40%の投票率だと、5人に1人の賛成で決まってしまう。
 
  「国のかたち」を決める憲法の改正がそれでいいのかどうか、さらに議論する必要がある。
  第二は、投票は「関連する事項ごとに行う」とされているが、何と何が関連し、どう提起されるのかつまびらかでない。
 
  投票年齢の18歳への引き下げは世界的な流れであり、特に憲法改正が次世代に直接影響するから当然の対応だ。
  その一方、経過措置期間の3年間に公職選挙法はじめ、民法、少年法、喫煙や飲酒を規制する法律などの改正も必要だ。社会の仕組みを変えることになり、よくよく国民に浸透したか見極めなければならない。
 
 
『東京新聞』社説  2007年4月1日
週のはじめに考える  “愛”は強制できるか
 
  歴史の節目はある日突然、現れるのではありません。大事なことを見落としていて、気がついたら引き返せなくなっていた、ということが多いものです。
  安倍晋三首相は改憲を参院選の争点にするといい、国民投票法案もいよいよ審議入りです。非戦、非武装の第九条改廃と並んで国民に対する愛国心の要求がいよいよ現実の問題として迫ってきます。
  自民党が二〇〇五年十月に発表した新憲法草案では、前文に国民の責務として愛国心を定めています。昨年暮れに成立した新しい教育基本法でも、教育の目標として愛国心の養成を掲げました。
 
「内心の自由」への介入
  所属する地域、国家に誇りや愛着を感じるのは自然の感情です。他人がそれをとやかく言うべきではありません。逆に「誇りを持て」「愛せよ」と強いるべきでもありません。まして法律で強制するのは「内心の自由」への介入です。
  昨年九月、東京地裁は入学式・卒業式で教員らが「日の丸に向かって起立し、君が代を斉唱する義務はない」との判決を出しました。強制は憲法第一九条で保障される「思想および良心の自由」、つまり内心の自由を侵害する、という判断です。
  他方、最高裁はさる二月に、入学式で君が代の伴奏を教員に強制しても違憲、違法とはいえないと判断しました。日の丸、君が代問題のとらえ方は人や立場によって異なり、違憲、違法か否かの限界に関する法的判断の違いも微妙です。
  “愛”と“強制”を考える題材としてよく紹介されるのが、シェークスピアの名作「リア王」です。
  リア王は領地を分け与える条件として娘三人に「自分を愛するかどうか」問いかけます。その結果、美辞麗句を並べた上の二人に与えますが二人は晩年の父を虐待し、王は「何もいうことはない」とこびなかった末娘に一度は救われます。
 
迫られる現代版踏み絵
  この物語は、愛を強制するむなしさ、愛を強調するうさんくささを示唆しているともとれますし、「強制されて表明するのは愛でも尊敬でもない」と教えているともとれます。日の丸、君が代をめぐって現実世界で起きている問題は、これに似て現代版の踏み絵ともいえるものですから深刻です。
  日の丸、君が代に対する違和感の理由は歴史観、国家観、政治信条、信仰など人によって違います。政治思想から日の丸を愛さない人に「敬意を表さないと処罰する」と迫るのは転向を、信仰を理由に君が代を歌わない人に斉唱を強制するのは改宗を強いるようなものです。
  国旗国歌法を制定したとき政府は「強制はしない」と明言していました。東京地裁の判決も「懲戒処分までして強制するのは少数者の思想良心の自由を侵害する。国旗、国歌は自然のうちに定着させるというのが法の趣旨」と述べています。
  第二次世界大戦の末期、多数の若者を死に追いやった特攻隊は、建前としては志願制でしたが事実上、強制でした。志願しないと国を愛していないと異端扱いされますから多くの人が志願したのです。
  押しつけが危険なのは「何を言っても無駄」「自分が決めるのではないからどうなっても責任はない」という心境になり思考停止に陥りがちなことです。国中がそうなってしまった結果が、あの敗戦でした。
  その教訓から自由にものが言え、多元的価値観を尊重する原理を、私たちは選びました。マスゲームのような統一的行動を尊ぶ感覚もあり得ますが、日本国憲法はそのような思想に立脚していません。
  内心の問題は多数決になじまず、民主的手続きを経ても強制できません。誰もが互いの思想、信仰などに寛容でなければならないのです。
  公権力が国家、社会、国民のあり方に公定の価値観を貫徹しようとしたための深い傷はまだ癒えていないはずですが、現在の状況を他人事(ひとごと)として、深く考えずに過ごしている人が少なくありません。
  自衛隊と米軍の一体化による軍事力強化、防衛省の実現、有事法制の整備、そして愛国心教育…「まるで臨戦体制の整備」という声もあります。小泉純一郎内閣に続く安倍内閣の誕生、国内のナショナリズムの高まりでこの国は大きなカーブを切りつつあるように見えます。
  「文芸春秋」四月号に載った小倉庫次侍従の日記「昭和天皇・戦時下の肉声」を読むと、軍部の独走と政治の非力に不満を抱きながら、立憲君主制の枠内にとどまろうとしていらだつ天皇の姿が浮かびます。
 
将来、悔やまぬように
  天皇と違って情報の少なかった当時の国民は、いまと同じように平穏に暮らし、気づいた時は後戻りできなかったのではないでしょうか。
  しかし、いまは見ようとすれば見え、聞こうとすれば聞こえ、発言も自由です。将来「あの時、あの角を曲がらなければ…」と悔やまないよう、目を凝らし、耳を澄まし、思考を研ぎ澄まして行動したいものです。
 
『朝日新聞』天声人語  2007年3月30日
  安倍首相が掲げている政治目標に「戦後レジームからの船出」がある。レジームという言葉は、フランス革命で倒されたアンシャン・レジーム(旧体制)を連想させる。この旧体制は絶対君主制で、国民は極めて抑圧されていた。
  安倍首相が「船出」に挙げるのは、改憲して新しい憲法を制定することだ。その憲法を改める手続きを定める国民投票法案が成立する公算が大きくなっているという。
  手続きを決めるものとはいえ、ことは国の最高法規にかかわる。発足から半年の安倍政権の軌跡をみると、これだけ重みのある法案をきちんと取り扱えるのかと不安になる。
  この政権に向けられた疑念に「政治とカネ」の問題がある。それを象徴するのが松岡農水相の光熱水費疑惑だ。無料のはずの議員会館の光熱水費を5年で3000万円近くも計上していた。説明を拒む農水相が閣僚や議員としての適性に欠けるのは明らかだが、それをかばい続ける首相の適性もまた問われている。国会での多数の力に寄りかかっているのだろうか。

  フランス革命の少し後に生まれ、「アンシャン・レジームと革命」を著した歴史家で政治家のトクヴィルは「多数者の専制」が少数者を脅かす危険を警告した。「どんな政府であれ、力のあるところには卑しい根性が近づき、権力には追従が付きものであると思う」(『アメリカのデモクラシー』岩波文庫・松本礼二訳)。
  民主政治の国では、多数派が優位に立つ。しかし、数に物を言わせて「船出」を強行するとしたら、国が沈むことにもなりかねない。
『東京新聞』社説  2007年3月30日
国民投票法案  議論ゆがめる党利党略
  慌てる必要はまったくない、という私たちの主張は変わらない。憲法改正手続きを定める国民投票法の与党修正案が衆院の特別委員会で審議入りした。参院選にらみの思惑先行では議論もゆがむ。
  自民、公明の与党は四月十三日の衆院本会議可決、続く参院の審議を急ぎ、六月下旬までの今の国会での成立を目指しているという。
  衆院の圧倒的多数に加えて与党は参院でも過半数の議席を持つので、審議が順調ならば成立はほぼ確実だとされている。
  審議入りした修正案は、与党が昨年五月に独自の法案を国会に出した後、民主党との協議を重ねて合意した幾つかの論点をベースにする。
  公職選挙法の改正などを前提に投票権年齢を十八歳以上とするとか、投票日前のメディア規制といった項目で民主党の主張に譲る一方、民主との共同提案を断念したのに伴って公務員の活動規制を復活させた。投票の対象も改憲に限定した。
  審議の舞台である衆院憲法調査特別委が中央と地方で開いた公聴会では、公述人の多くが強引な運びに懸念を示している。与党推薦の人でさえ拙速を戒める意見陳述をしているのをみても、生煮えのまま議論を進めてよいのかと懸念する。
  今国会で絶対に成立させると気負うのは安倍晋三首相だ。年明けから改憲を参院選の争点にすることを表明して国民投票法の成立を「戦後レジーム脱却」の柱に据えている。
  「首相在任中の改憲」を公言する手前、これがその一里塚、という思いなのだろう。が、奇妙なのは、改憲派の論客からもこの投票法案に慎重な意見が出ていることである。
  与党が目標とする衆院通過の日程は統一地方選の知事・道府県議選などが投開票された後だ。公明の嫌う選挙期間を外して、次はいよいよ参院選へ向けた野党の分断。とりわけ参院の与野党逆転を狙う民主を揺さぶるのに、賛同者の少なくない投票法案の採決を格好の材料にする−。
  こんな憶測が信ぴょう性を持つ。事実なら露骨な党利党略に大事な憲法問題を使うことになる。首相や与党幹部の見識を問うておきたい。
  もとより憲法をめぐる論議は、いたずらな党利の思惑を排して進められるべきである。手続き法などを国政選の直前に争点とすること自体、違和感を持つ人も多いはずだ。
  私たちは改憲が国会で発議されるような場面では、改憲テーマにふさわしい手続きもおのずと合意可能になると考える。異論はあろう。それも含めて議論に時間をかけるのは、けっして無駄なことではない。
 
『山陽新聞』社説  2007年3月30日
国民投票法案  問題点多すぎる改憲路線
  衆院憲法調査特別委員会で、憲法改正手続きを定める国民投票法案与党修正案の審議が始まった。今国会の最重要法案と位置付ける安倍政権は四月中旬の衆院通過、今国会での成立を目指している。

  昨年五月提出の与党案に民主党案の一部を盛り込んだ形で、自民、公明両党の合意により今週初めに与党修正案として国会に提出された。投票年齢は従来の与党案の「二十歳以上」を「原則十八歳以上(当面は二十歳以上)」とし、投票方式は○×の自書式から投票用紙に印刷した「賛成」「反対」のどちらかを○印で囲む方式にした。

  なぜ十八歳以上なのか、自書式をやめたのか。しっかりした説明が欠かせない。さらには法案は投票を「関連する事項ごとに区分して行う」としているが、「関連」の範囲があいまいだ。

  賛同を得やすい環境権創設などと賛否のある憲法九条などを一緒に扱えることになれば、民意が正しく反映されないことになりかねない。国の根幹をなす憲法であれば、できるだけ事項を区切って賛否を問う仕組みにする必要がある。個別テーマでの投票を基本に考えるべきだ。

  憲法改正の成立ラインの問題も大きい。憲法九六条は、国民投票で必要とする「過半数」の定義をしていない。法案は有効投票総数の過半数とした。有権者総数の過半数、無効票を含む投票総数の過半数など考え方がある中で、最もハードルが低い。一定の投票率を下回れば国民投票を無効とする最低投票率の制度も採用しておらず、仮に投票率50%なら四分の一の賛成で憲法改正が可能になる。

  メディアに関しては、テレビなどの有料意見広告(スポットCM)を投票期日前の二週間、禁止した。与党の従来案の七日間から延長した。メディア側の反対論は退けられた。意見表明の自由に対する規制は論外であろう。

  民主党案では憲法以外の国政の重要事項も扱うとしていた国民投票の対象は、憲法改正に限定した。現行の代議制を補完し、国民の意思決定の幅を広げる点からも国民投票の対象についてはなお検討する必要がある。

  憲法については国内にさまざまな考え方や議論が渦巻いており、どこをどう直すかはもちろん、改憲の是非自体にも幅広い合意が形成されているとは言い難い。

  国民投票法案を細かく眺めると、改憲論者に都合よくできている。安倍晋三首相は法案を成立させた上で憲法改正を参院選の争点にする考えだが、問題の多い法案の成立を急いではならない。
 
『中国新聞』社説  2007年3月29日
国民投票法案  前のめり姿勢に危うさ
 
  憲法改正の手続きを定める与党の国民投票法案が、今国会成立に向けてがむしゃらな動きを速めている。安倍晋三首相らの前のめりの姿勢に危うさを感じる。
  自民、公明両党は二十七日、同法案の修正案を国会に提出した。昨日は新潟、大阪両市で同法案についての地方公聴会が開かれた。与党は四月十三日にも修正案を衆院通過させる構えだ。
  そもそも民主党は、与党と同法案の修正協議を進めていた。それが、憲法改正を参院選の争点に掲げるとの安倍首相の表明で、反発に転じたいきさつがある。
  安倍首相サイドには、憲法改正を争点にすることで、民主党の内部分裂や野党の選挙協力にひび割れを引き起こせる、との計算があったと思われる。その上に参院選に勝てれば、国民の合意が得られたとして、憲法改正に一気に突っ走れる、との読みも感じられる。
  しかし、ちょっと待ってもらいたい。同法案にはさまざまな問題がある。今国会成立を優先したために、十分な議論もへず、国民へも周知徹底を図ることなく、日程を急いだ感がある。
  同法案の最大の問題は、最低投票率を定めていないのに、有効投票数の過半数の賛成で成立することにある。憲法という大切な問題が、国民のほんの一部の投票で決定する恐れがあるのである。
  さらに投票のやり方も明確さを欠く。「関連する事項ごと」の改正条項で投票する、とあるだけでは、どんな範囲の改正条項になるのか判然としない。その上に、賛成か反対に○をする投票では、果たして国民の総意をどこまで受け止められるか疑問が残る。
  罰則は付いていないとはいえ、公務員や教育者が「影響力、便益を利用して国民投票運動をすることはできない」としている。公務員らをどこまで縛ることになるのかも不透明だ。テレビなどの有料意見広告についても、「投票二週間前から禁止」が妥当なのか。メディアなどの自主規制に任せるべきなのか。意見が分かれるところだろう。
  結局、疑問点などはあいまいなまま、今国会成立を狙う首相の意向に沿って、与党単独ででも急ごうとしている。戦後日本の平和と繁栄に寄与した憲法を、自民党の一時的な勢いや、米国の水面下の圧力などで、変えていっていいのかどうか。そうした拙速は、東アジアの秩序と安定にもかえって悪影響を与えるだろう。
 
『京都新聞』社説  2007年3月28日
国民投票法案  国民の声に耳を傾けよ
 
  憲法改正手続きを定める国民投票法案が動き出した。
  自民、公明両党が与党の最終修正案をまとめ、国会に提出したのだ。
  統一地方選前半の投票(四月八日)が済んだ来月中旬にも衆院本会議を通過させ、五月に成立させる段取りでいる。
  なぜ、そんなに急ぐ必要があるのか。国の最高法規である憲法の改正にかかわる最重要法案である。国民的な論議を深めるのは、これからではないか。
  「改憲」について国民の意見が分かれている。「手続き法」といえども幅広い国民の理解と合意は欠かせない。慎重でていねいな審議を求める。
  安倍晋三首相は、年明けから在任中の憲法改正に強い意欲をみせ、参院選の争点にする考えを示した。議員立法である投票法案の今国会成立に異例ともいえる「強い期待」を表明している。
  首相にとって「強い指導力」を国民にアピールできると踏んだに違いない。憲法改正への道を切り開くことで、党内で意見の分かれる民主党に揺さぶりをかける計算も働いていよう。
  民主党は、与党との修正協議で成立すれば「首相の得点になるだけ」と、協調路線を離脱した。改憲に反対する共産、社民両党は同法案にも反対だ。
  夏の参院選を前に、投票法案をめぐる与野党の対決色は一段と強まる気配だ。
  与党案は原案を修正し▽投票年齢を「二十歳以上」から「原則十八歳以上(当面二十歳)」に変更▽三年間で選挙権なども十八歳以上に引き下げ▽改憲審議は三年間凍結などが柱だ。民主党との合意内容をほぼ取り込んでいる。
  国民投票の対象は民主党が主張した国政の重要問題まで広げず、改憲案に限った。公務員、教職員の地位を利用した運動への罰則規定は盛り込まず、運動制限に必要な法整備も先送りした。
  この与党法案の内容は国民にきちんと説明され、周知が図られているか。衆院憲法調査特別委が開催した中央公聴会でも公述人から疑問や懸念が相次いだ。
  なぜ、投票年齢が十八歳からなのか。国民投票運動の期間は「六十日以後、百八十日以内」でいいのか。公務員・教職員の運動制限、最低投票率はどうするのか。過半数の定義なども含め多くの論点を整理し、詰めなければならない。
  安倍首相は「機は熟した」という。しかし、全国電話世論調査では、国民投票法案に関して「賛成」は56・2%だったが、うち67・5%は「今国会成立にこだわる必要はない」と回答している。
  国会は、主権者である国民に情報を開示し、その声に耳を傾けることだ。
  衆参両院は地方公聴会とは別に、全国各地でタウンミーティングといった「聞く会」を開き、幅広く、正確に民意をくみとり、審議に生かしてもらいたい。
  「郵政総選挙」による巨大与党の数に頼んで、突っ走ってはなるまい。
 
『毎日新聞』社説  2007年3月28日
国民投票法案  政局絡めず合意を目指せ
 
  国民投票法案の与党修正案がまとまり27日国会に提出された。与党は単独でも衆院通過を目指す構えで、このまま可決する可能性も出てきた。
  憲法改正について国民が直接、判断を示すための手続きを定めたのが国民投票法案だ。国民主権にかかわる重要な法案であり、野党抜きや混乱状態の中での議論は避けなくてはならない。
  その点からも与党単独の修正案になったことは、残念だ。与党と野党第1党である民主党は党利党略を排して、最後まで合意形成を目指すべきだ。
  与党は投票年齢について「20歳以上」を修正し「18歳以上」にした。これは民主党案に譲歩したものだ。一方、投票対象については憲法改正に限定し、他の重要問題も対象にする民主党案を退けた。
  「18歳以上」は私たちもかねて主張してきた。憲法に対して若い世代からの声を反映させることに国民も異論はないはずだ。
  付則では公職選挙法や民法など関連法制の整備を求め、整うまでは「20歳以上」と規定した。だが、喫煙、飲酒年齢など多くの法律が関連し、社会的な影響も大きい。与野党の利害を超えたきめの細かい議論が必要になる。
  投票対象を憲法改正に絞ったのは、立法の趣旨から言っても妥当だろう。手続き法の論議はそもそも憲法に規定される「改正条項」からスタートしている。
  一般的な国民投票の導入は、代議制の根幹にかかわる。付則で「検討を加え、必要な措置を講じる」としている。地方では住民投票が行われており手続き法とは別途に議論を深めるべきだ。
  投票日2週間前からの有料のテレビ・ラジオの広告放送を禁止した。これは「表現の自由」の観点からも問題がある。
  自由な憲法論議のためにはメディアへの規制はすべきでなく、基本的には放送側の自主的なルールに任せるべきだ。
  与党と民主党が共同修正に至らなかったのは、双方が憲法と参院選挙を絡めてしまったからだ。
  安倍晋三首相は憲法改正を参院選の争点にする意向を示した。自民党内には法案提出で選挙前に民主党内の賛成派と反対派を分断しようという狙いもあるのだろう。
  一方、民主党内には、国民投票法案の成立は安倍首相の得点につながるという見方もある。法案に反対する社民党との選挙協力の観点から法案に賛成しにくい事情もあるだろう。
  本来なら与党が野党も乗りやすい環境を作り、協議を働きかけるのが筋だろう。自民党はアピール効果を狙って、いったんは憲法記念日までに成立させるという方針を立てた。しかし、それは理屈に乏しく挑発的だった。
  民主党もこのままでは反対のための反対と受け取られかねない。
  法案成立までには詰める点が多い。政局絡みの思惑で最重要法案が左右されるのは、国民にとって不幸なことだ。まだ遅くはない。ぎりぎりまで合意への努力を怠るべきではない。
 
 
『産経新聞』主張  2007年3月28日
国民投票法案  改憲へハードル越える時
  自民、公明両党は、憲法改正の手続きを定める国民投票法案の修正案をまとめ、国会に共同提出した。
  国民投票は憲法第96条に「その過半数の賛成を必要とする」などと規定されている。憲法制定時に整備されねばならなかったが、施行以来、60年近く放置されてきた。この違憲の疑いもある立法の不作為を与党が是正しようとしていることを率直に評価したい。
  法案が問題を抱えていることは否定できない。与党が民主党の主張を大幅に取り入れた結果である。だが、憲法改正を実現するためにはやむを得ない判断といえる。
  安倍晋三首相はこのハードルを乗り越えない限り、任期中に憲法を改正するという約束を果たせない。
  憲法改正は各議院の3分の2以上の賛成で国会が発議する。自民、公明、民主3党がまとまらなければ、発議すら画餅(がべい)に過ぎないからだ。
  民主党が与党修正案に賛成するかどうかははっきりしない。安倍首相が憲法改正を参院選の争点にすると言明し、国民投票法案の今国会成立に意欲を示していることへの政治的な反発があるからだろう。
  ただ、3党は昨年末、実務者ながら共同修正案をまとめた。投票年齢を18歳以上にしたのは、与党が民主党の主張に歩み寄ったためだ。投票の対象についても、与党が憲法改正に限定としたのに対し、国政の重要課題にも広げようと主張していた民主党は、「将来の課題として国会で議論する」ことを条件に足並みをそろえた。民主党執行部がこうした経緯を無視して、法案にブレーキをかけているのは遺憾だ。
  今回、与党がまとめた修正案はほぼ共同修正案を踏襲している。国民投票の対象は憲法改正に限るが、付則で「一般的国民投票は中長期的な検討課題」に挙げ、配慮をにじませた。
  共同修正案を再修正したのは、「公務員の政治的行為の適用除外」を削除したことだ。公務員の政治的中立性を担保するために必要な措置だが、刑事罰は設けないことにした。教育者の地位利用も同じ扱いだ。これで「公正なルール」が確保できるかどうか。
  これらの問題は、与党と民主党が国会で協議し、よりよい投票法案を制定することで解決するといえる。
 
『北海道新聞』社説  2007年3月25日
国民投票法案*主権者が置き去りでは
  国民の意思を直接問うための重要法案の審議が、このように国民置き去りで進められていいのだろうか。
 
  改憲手続きを定める国民投票法案の衆院での採決の前提となる、憲法調査特別委員会の一回目の中央公聴会が開かれた。
 
  特別委はこれに先立って、今週の大阪、新潟での地方公聴会と、来週の二回目の中央公聴会の開催についても、共産、社民両党を除く賛成多数で議決した。
 
  これらの既成事実の積み重ねで、与党は四月中旬の衆院通過が可能とし、与党案の今国会中の成立を目指す方針だという。
 
  しかし、この間の国会運営には大きな疑問がある。国民への十分な情報提供がなく、理解も広がらないまま、与党が数の力で強引に押し通そうという姿勢があらわだ。
 
  国の最高法規である憲法の改定にかかわる法案である。議論を深めることより日程を優先していいわけがない。
 
  一回目の中央公聴会の開催は、十五日の特別委で、反対の野党議員が委員長席に詰め寄る中、与党単独で一方的に決めてしまったものだ。
 
  与党が公聴会開催を急いだのは、戦後体制からの脱却を掲げ、今国会で改憲への地ならしをしたい首相の強硬な姿勢があったからだろう。
 
  自民党は、成立を図るため、与党単独採決も辞さない方針をすでに明らかにしている。
 
  幅広い論点を吟味し議論を尽くすという、民主主義のあるべき姿からは、程遠いと言わざるを得ない。
 
  それは、与党案、民主党案ともに当初案の問題点が指摘され、修正せざるを得なくなっていたにもかかわらず、修正案提出のないまま中央公聴会が開催されたことにも表れている。
 
  与党側は、投票権者を民主党が主張する十八歳以上とすることや、政党別の無料意見広告の量や回数の配分、運動を禁止する公務員の範囲などで当初案を修正する意向を表明している。
 
  ところが国民には、修正内容はきちんと開示されずにきた。
 
  与党修正案の提出は今週行われるというが、それから半月ほどしかない四月中旬に衆院を通過させると言うのでは、国民の議論を不要と考えているとしか思えない。
 
  国民主権にかかわる法案の審議が、国民そっちのけで進められるのでは、主権者軽視もはなはだしい。
 
  中央公聴会では最低投票率の規定が両案ともにないことや、発議から投票までの期間の短さなど、根本的な問題点もあらためて指摘された。
 
  公聴会は、単なる採決への通過手続きではない。拙速な審議は禍根を残す。与野党ともに、提起された論点を精査し直し、期限を切らずに慎重な審議を続けてもらいたい。
 
 
『新潟日報』社説  2007年3月20日
国民投票法案  成立を急いではならない
 
  自民、公明の両党が国民投票法案の与党修正案をまとめた。民主党との修正協議に見切りをつけ、今国会での法案成立を最優先した結果であろう。
 
  憲法改正の手続きを具体的に定めるのが国民投票法である。改憲のルールは、政治的偏りを排した公正公平なものでなければならない。与党と民主党が昨年来、修正協議を続けてきたのもそのためである。
 
  協議がねじれた原因は夏の参院選をにらんだ政党間の駆け引きにある。「憲法改正を参院選の争点に」ともくろむ安倍晋三首相にとって、国民投票法案の今国会成立は譲れないところだ。
 
  一方、政府・与党との対決姿勢を強める民主党には、法案を廃案に追い込んで安倍政権に打撃を与えたいという思惑がちらつく。国の最高法規を改正するための手続きが、政争の具になっている現状は嘆かわしい。
 
  憲法九六条に国民投票の規定がある以上、法の整備をすることは理解できる。だが、憲法改正を政治日程に組み込んでから法案づくりに乗り出すのは、強引な手法といわねばならない。
 
  改憲論議とは一線を画して国民投票について考えるべきだ。その意味では、ここに至るまで論議を放置してきた国会の怠慢は責められる。
 
  法案に反対の立場を取る共産党や社民党も含めてさらに論議を深めるべきである。整理されていない課題が山積しているからだ。
 
  与党案、民主党案とも触れていないが、最低投票率や絶対得票率の規定は本当に不要なのか。全国の住民投票条例が「投票率が50%に満たない場合は開票しない」などの一項を設けている例も参考にすべきではないか。
 
  修正協議で今も意見が対立している「投票対象」をどうするかも大きな問題だ。「国政の重要課題にも適用を」とする民主党の主張は、さらに検討されてしかるべきだ。
 
  安倍首相は一時、「五月三日までには法案を成立させたい」と述べていた。その後、「必ずしもそれにはこだわらない」と修正したものの、今年の憲法記念日を改憲への一里塚にしたいという狙いは隠せない。
 
  二十二日には、法案採決の前提となる衆院憲法調査特別委員会の公聴会が開かれる。この日程も野党の反対を押し切って設定されたものだ。
 
  一月の自民党大会で安倍首相は、任期中の憲法改正に強い意欲を示した。憲法そのものについての国民的論議がほとんどない中で、前のめりに事を進める姿勢は危うい限りである。
 
  政府・与党に求められるのは法案の成立を急ぐことではない。憲法についての国民の声に耳を傾け、論議の土俵を整えることに意を尽くすべきだ。
 
 
『京都新聞』社説  2007年3月20日
国民投票法案   論議を十分尽くしたか
 
  憲法改正手続きを定める国民投票法案をめぐって、与野党が対決色を強めている。
 
  与党は衆院憲法調査特別委員会で、法案採決を前提とした公聴会の二十二日開催を野党の抗議を押し切って議決。与党は来月中旬に、与党単独でも衆院通過を図る構えだ。今後の審議の混乱が懸念される。
 
  昨年までの「協調路線」が対決ムードに一転した背景には、夏の参院選をにらんだ与野党の思惑や駆け引きが見え隠れする。   国民の意見が分かれる憲法改正につながる重要法案だけに、政争の具にするようなことがあってはなるまい。
 
  安倍晋三首相は、年頭会見で憲法改正を参院選の争点に掲げる方針を示し、国民投票法案を「今国会で絶対に成立させる」と意気込みをみせている。   選挙で憲法改正問題を争点化すれば、党内で意見が分かれている民主党を揺さぶり、有利に運べるとの計算があろう。内閣支持率続落の中で、強いリーダーシップをアピールすることもできよう。
 
  だが選挙への影響を考える前に、徹底的に論議を重ねることのほうが重要だ。   一方、民主党は同法案の成立も念頭に与党との共同修正協議に応じてきた。だが参院選を控えて、相手のペースで成立すれば憲法改正を掲げる首相の得点になるからと、先送り戦術に転じた。
 
  党内には「中身には反対ではない」(鳩山由紀夫幹事長)という声もあり、分かりづらさがぬぐえない。
 
  与党は、民主党案の多くを取り込み、▽投票年齢を「二十歳以上」から「原則十八歳以上(当面は二十歳)」に変更▽両院に設置する憲法審査会での改憲案審議を公布後三年間行わない−などを柱とする修正案をまとめ、公聴会後、国会に提出する予定だ。
 
  ただ双方の主張する内容には論議が煮詰まっていない課題が多いのも事実だ。
 
  国民投票の対象について、与党案が憲法改正に限るとしているのに対して、民主党案は国政での重要問題も加えるべきとしている。
 
  間接民主主義のあり方にもかかわる問題だけに、もっと国会審議を尽くす必要がある。
 
  憲法改正の賛否の分かれ目となる過半数の定義をめぐっても、与党案と民主党案で考え方に違いがある。最低投票率を規定すべきかどうかも未決着だ。
 
  改憲に反対する共産党や社民党は同法案の成立にも反対している。
 
  こうした課題も含めて、国民投票法案の必要性や各党の考え方について、国民に十分説明できているとは思えない。国民の声をもっと聞くべきだ。一回限りの公聴会で事足りるわけがなかろう。
 
  むしろ参院選などを通じて各党の主張を国民に分かりやすく訴えたらどうか。その上で同法案の扱いを決めても、決して遅くはあるまい。
 
 
『中国新聞』社説  2007年3月19日
国民投票法案  与野党で審議は慎重に
 
  憲法改正に必要な国民の承認を得るために設けられる「国民投票法案」。与野党の対立によって、衆院憲法改正特別委員会で採決に先立って開く公聴会の日程も、与党だけの賛成で決まった。国の根本にかかわる問題だけに拙速を避け、合意形成へ向けた慎重な審議が欠かせない。
 
  憲法は、その改正手続きを「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」と九六条で定めている。さらに「この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる選挙において、その過半数の賛成を必要とする」とある。これを具体化しようというのが国民投票法案だ。
 
  衆院に昨年五月、与党案が提出された。民主党も同時に対案を出し、質疑や審議を重ねてきた。これまでに、与党と民主党との間では(1)投票権者の年齢を「原則十八歳以上」(当面二十歳)とする(2)新たに衆参両院に設ける憲法審査会での具体的な改憲案の審議を三年間凍結—など九項目の修正に大筋合意している。
 
  ところが、安倍晋三首相が憲法改正を七月の参院選の争点に掲げたことに伴って、状況は変わってきた。自らの政治姿勢を強く打ち出し、指導力をアピールしたいという狙いから、先月末には「五月三日の憲法記念日までの成立をめざしたい」と自民党に指示した。衆院での数の優位を背景に成立を急ぐ姿勢に、民主党など野党は態度を硬化させた。
 
  肝心の国民はどう考えているだろうか。共同通信社の世論調査では七割近くが「今国会での成立にこだわる必要はない」と答えている。法案への賛成が半数を超える一方で、どうして今決めなければならないのかという疑念も強いようだ。広がる格差の是正、少子高齢化対策など、もっと急ぐべき課題が山積しているからだろう。
 
  憲法は、国家権力が乱用されないよう制限する基本法であり、状況の変化だけで文言を変えたりする性質のものではないだろう。特に、ヒロシマ、ナガサキの惨禍を体験する中で戦争放棄を誓った「九条」の改正には、より一層慎重であるべきだ。
 
  手続き法とはいえ、国民投票法案が可決されれば、憲法審査会の設置など次の段階に進むことになる。論議が十分尽くされぬまま、改憲へ向けた既成事実が重ねられていくことだけは避けたい。
 
 
『信濃毎日新聞』社説  2007年3月18日
国民投票法案  無理押しは避けよ
 
  憲法改正手続きを定める国民投票法案の採決に向けた公聴会の開催日程を、与党が決めた。与党単独採決による憲法記念日までの法案成立をにらんだ強硬策である。
 
  憲法改正の方向を左右する大事な法律だ。法案の中身も十分には詰め切れていない。これ以上の無理押しは避けるべきだ。
 
  自民・公明の与党と民主党はそれぞれの国民投票法案を、昨年の通常国会に提出済みだ。いずれも継続審議となっている。
 
  自公と民主党は他方で、三党が一致できる内容にすることを目指して修正協議を続けてきた。投票年齢を十八歳以上とすることなど、合意が重ねられつつある。
 
  ここへきて与党が強硬に出た背景には、夏の参院選がらみの思惑がありそうだ。▽憲法改正をめぐって賛否両論を抱える民主党を揺さぶる▽安倍晋三首相のリーダーシップを印象づける−などである。
 
  問題は、今国会での成立を模索するほどには、法案の中身が練れていないことだ。論議不足の点はたくさん残っている。
 
  例えば投票のテーマである。与党案は憲法改正に限っているのに対し、民主党案は憲法以外にも対象を広げている。憲法以外の問題も国民投票で決めるとなれば、政治は直接民主制に一歩近づく。軽く考えてはいけない論点だ。
 
  新聞への意見広告規制にも問題が残る。与党案には、賛否にかかわらず料金などの条件を平等とするよう配慮する規定が設けられている。新聞広告に規制がかけられると、自主的な意見表明が妨げられる心配が強まる。「表現の自由」にかかわる重大な問題である。
 
  白票を反対票に数えるかどうか、改正項目を個別に問うのか一括か、といった点も詰め切れていない。
 
  憲法改正を国会が発議するには、衆参各院で総議員の三分の二以上の賛成を必要とする。これに対し国民投票法は各院の過半数で制定できる。普通の法律と同じである。
 
  ただし、国民投票の仕組みがどう決まるかによって、憲法改正も影響を受ける。国民投票法についても憲法と同様、できるだけ多くの政党の賛成で決めるのが望ましい。自民、公明の与党と野党第一党の民主党の合意は最低限、必要である。
 
  共同通信の最近の世論調査では、国民投票法案に「賛成」する人は半数以上にのぼるものの、そのうち七割近くは「今国会成立にこだわる必要はない」と答えている。教育基本法改正と防衛庁「省」昇格法制定の余勢を駆るかのように突き進むようでは、国民の理解は得られない。
 
 
『神奈川新聞』社説  2007年3月17日
国民投票法案  拙速な審議は許されない
 
  憲法改正手続きを定める国民投票法案の審議が緊迫の度を増している。十五日に中山太郎委員長(自民党)の職権で開かれた衆院憲法調査特別委員会は、採決の前提となる公聴会の二十二日開催を与党の賛成で決めた。野党との協議を無視した残念な事態だ。
 
  同法案については、与党案にせよ民主党案にせよ、議論が尽くされていない問題があまりに多い。修正協議で両案の相違は小さくなっているというが、両案の一致点、沈黙している点にこそ深刻な問題がある。国民投票法案の内容は憲法改正の行方を左右しかねないものだ。拙速な制定は許されない。今国会の成立にこだわらず、徹底的な議論を行うべきだ。
 
  山積している問題の一つが、テレビ・ラジオの有料意見広告(スポットCM)の規制問題である。資金力の多寡で改憲への賛否の広告量が不公平になる事態にどう対処するのか。与党修正案では投票日の十四日前から禁止するほか、賛否を平等に取り扱う配慮を義務づけている。民主修正案では、十四日前からの禁止、発議した日からの禁止など三案が検討されている。これに対しメディア側は表現の自由の擁護から、自主規制を強く主張し対立している。
 
  ただ、識者らからも一定の法的規制や明確なルール作りを求める声が強く上がっている。市民団体などからは、財界などが巨額な資金を使って有名人らを動員、改憲CMを大展開するのではとの懸念が聞かれるのも事実だ。
 
  議論が深まらない中で、政党側が安易な禁止論を展開するのは極めて憂慮すべき状況である。表現の自由と公平性を両立させるルールについて、メディア側と各種団体、識者らによる徹底した議論が不可欠であり、そのための十分な時間が必要だ。
 
  第二に、与党案、民主案ともに沈黙している大問題が、最低投票率である。国民主権の観点からすれば、低投票率のために極めて少ない賛成で改憲が成立するような事態は避けるべきだ。一定の投票率を超えなくては国民投票が成立しない仕組みが必要ではないか。日弁連は「少なくとも投票権者の三分の二以上の最低投票率が定められるべきである」と述べている。早急に検討すべきだ。
 
  また、与党案では、公務員・教育者の「地位利用の禁止」を定めている。罰則は削除されたが、行政処分の可能性は残っている。表現の自由を侵害する恐れが大きいといわざるを得ない。さらに、現在の憲法調査会を改組し、常設の憲法審査会を設置することなどにも疑問がある。憲法審査会は改正案の発議と同時に設置するのが憲法の趣旨に合致するはずだ。
 
  安倍晋三首相は同法案を「今国会で絶対成立させる」と強調しているが、憲法改正を急ぐあまりの国民主権、民主主義の軽視である。
 
 
『毎日新聞』大分版  2007年3月13日
おおいた評論:論説委員氏へ  /大分
 
  憲法改正の手順を定める国民投票法案を、自民党は今の国会で成立させる意向だという。国民の声を聞いたというセレモニーに過ぎない「公聴会」の15日開催は、野党の反発で延期になった。9日の弊紙社説は、国民投票法自体は必要とした上で「少なくとも与党と野党第一党の民主党との合意が不可欠」と書いた。
 
  異議がある。自民党と民主党の意見の違いは、国民投票を改憲に限るか国政にまで広げるかどうかといった程度で、大筋は合意している。改憲に反対している共産、社民両党や学者、弁護士は、与党案は改憲派に有利な内容だと以下のような問題点を指摘する。
 
  前提として、改憲への賛否の表明の場は公平に与えられなくてはならない。与党案はテレビラジオや新聞に政党が公費で意見広告を出すことができると定めるが「当該政党等に所属する衆議院議員及び参議院議員の数を踏まえて」とある。大政党には多くの機会を与えるが、小党にはわずかしか与えないという事だ。改憲は国会議員の3分の2以上の賛成で発議されるから、いきおい改憲派が幅を利かせることになる。
 
  一般の国民も投票の7日前までは賛否の広告をテレビラジオに出すことができるが、公費の助成はない。自民党のスポンサー、日本経団連は改憲賛成を明言している。国民投票でも自民党を応援するだろう。改憲派が電波を買い占める事にならないだろうか。
 
  与党案には最低投票率の定めもない。40%の投票率でも過半数、20%超の賛成票で事足りる。国民の5分の1の賛成で国の最高法規を変えてしまうことが適切な事なのか。投票までの期間は60〜180日と定めるが、十分な国民論議を広めるのに短すぎないか。
 
  さすがに一部は修正の話し合いが進んでいると聞くが、丁寧な報道はない。社説も論評しない。取るに足らぬ少数意見と、論説委員氏は考えているのだろうか。改憲派が多数の永田町にばかり目を向けて、改憲を自然の成り行きとみなしてはいないだろうか。
 
  井上ひさしさんや大江健三郎さんら著名9氏の呼び掛けに応えて平和憲法を守ろうと訴える「九条の会」が全国に6000も生まれている。こちらも東京発の記事は少ない。臼杵市の会に先日、招かれた。批判覚悟で出掛けたが、「期待していますから」と励まされて少し安堵(あんど)した。<大分支局長・藤井和人>
 
 
『秋田魁新報』社説  2007年3月10日
国民投票法案  参院選対策にはするな
 
  安倍晋三首相は、国民投票法案を5月3日の憲法記念日までに成立させたい考えを明らかにした。首相の強い意向を受け、自民党は民主党との修正協議で最終合意が得られない場合でも与党単独で修正案を提出し、月内の衆院通過、5月3日までの成立を目指す方針だ。
 
  しかし国民投票法案は憲法改正に必要な国民の承認を得るための投票制度を定めるもので、国の将来を左右する極めて重要な法案である。改正への賛否に関する新聞、放送での意見広告の規制も盛り込まれたままだ。当然、意見広告規制には反対だ。与野党修正協議など詰めの論議を始める前に、与党単独採決の強行をほのめかす自民党の姿勢も容認できない。
 
  国民投票法案は昨年5月、自民、公明両党と民主党がそれぞれ提出した。改憲に関連する法案を国会で審議するのは昭和22年の憲法施行後、初めてのことだが、臨時国会で継続審議となり、現在は衆院憲法調査特別委員会で審議されている。
 
  昨年の臨時国会では与党と民主党が衆院憲法調査特別委などの審議を通じ▽投票権者の年齢は原則18歳以上、当面20歳▽公布後3年間は衆参両院に新設される「憲法審査会」での改憲案審議を凍結する▽改憲の賛否に関するテレビやラジオでの有料スポットCMの放送禁止期間は2週間—などと修正することで大筋一致している。
 
  国民投票制度とメディアの関係をめぐっては日本新聞協会が1月、広告について、自由な意見表明、情報流通を阻害するような規制には反対する旨の意見書を衆院憲法調査特別委に提出した。広告の取り扱いは日本新聞協会の主張通り、法で規制するのではなく、各社が培ってきた自主的な基準や判断に任せるべきだ。意見書には「法的な規制を設けることは、広告を掲載する新聞社を委縮させ、ひいては主権者である国民が公正に判断するための手段を損なう」とあるが、規制は表現の自由の侵害でもある。
 
  自民党は法案の早期成立に向け、民社党と歩み寄る方法を模索してきた。それが大筋で一致した修正部分だが、その一方で自民党が早くから5月3日の成立を目指す方針を掲げていたのに対し、民主党は慎重な審議を求めていた。ところが安倍首相がその日付を明示したことで民主党は反発、しかも与党単独で成立を図ることも辞さないとあって、与党と民主党の対立は深まった。
 
  安倍首相は民主党の賛同を得ることが望ましいとの考えも示しているが、日付まで明示しておいて民主党の歩み寄りを求めるのは無理な相談というものだろう。与党内でも公明党は、5月3日に特に意味はなく、民主党の理解を得る努力を続けた方がいい、としている。妥当な判断といえる。
 
  各党の国民投票法案への対応には、参院選に向けた思惑が絡む。任期中の改憲を目指す安倍首相は同法案を早く成立させ、改憲を参院選の争点にしようとしている。しかし改憲にかかわる法案をめぐり、人数で優位に立つ自民党が参院選対策を重視して専行すれば、将来に禍根を残すことになろう。
 
 
『西日本新聞』社説  2007年3月9日
自民党は強引にすぎる  国民投票法案
 
  憲法改正に強い意欲を示す安倍晋三首相の意向が反映しているのだろう。自民党がなりふり構わず、改憲手続きを定める国民投票法の成立に動き始めた。
 
  同党は、さ来週にも衆院憲法調査特別委員会で法案採決の前提となる公聴会を開きたいとしている。
 
  民主党は激しく反発しているが、自民党は与党単独ででも審議を進めて月内の衆院通過を図り、5月3日までの成立を目指す構えだ。
 
  そんなにがむしゃらに成立を急ぐ必要が、いったいどこにあるのか。強引な手法に強い危惧(きぐ)を覚える。
 
  安倍首相は、憲法改正を夏の参院選の争点に据える考えを表明している。国のトップリーダーが、自身の信念を選挙で国民に堂々と問おうとする姿勢そのものは、悪くはない。
 
  「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げる首相にとって、改憲はカラーを鮮明に打ち出せるテーマでもある。
 
  自民党としては、憲法記念日に先立って国民投票法を成立させ、大いに改憲ムードを盛り上げて参院選につなげる狙いなのだろう。
 
  だが、自民党が目指す憲法9条の改正は、平和国家としてのこの国のかたちを大きく変える可能性をはらんでおり、国論を2つに引き裂きかねないテーマだ。
 
  その可否の最終関門となる国民投票の仕組みは、慎重が上にも慎重に練り上げてしかるべきだ。選挙をにらんで成立期限を区切り、強引に審議を進めるようでは、党略がすぎよう。
 
  同法案は昨年の通常国会で、与党と民主党がそれぞれ提出し、双方の間で修正協議が続けられていた。
 
  国会で改憲を発議するためには、衆参両院それぞれ3分の2以上の賛成が必要だ。自民党もその現実を見据え、当初は民主党との共同修正を目指していた。
 
  この期に及んで、一挙に強硬策に転じた背景には、民主党執行部が夏の参院選を視野に自民党との対決路線を重視し、共同修正に否定的な態度に転じたことがあるようだ。
 
  だからといって見切り発車に踏み切る局面だろうか。一般国民にとって、憲法問題の優先順位は高くない。参院選後に仕切り直し、あらためて冷静に論議するくらいの余裕をもってもいいはずだ。
 
  これまでの与野党間の修正協議では、言論界や法曹界などから強い批判が出ていたメディア規制や、賛否の投票に関する運動の制限を大幅に緩和することで大筋合意していた。与党の原案に比べれば、一定の改善といえるだろう。
 
  自民党もこうした経緯を踏まえ、原案を修正する姿勢を示している。だが、国民投票の対象を憲法問題に限るかどうかなど、なお検討すべき課題や疑問点も少なくない。
 
  自民党がこのまま性急に事を運んでも、決して国民多数の共感は得られまい。
 
 
『山陽新聞』社説  2007年3月9日
国民投票法案  成立を急ぐべきではない
 
  安倍晋三首相は、五月三日の憲法記念日までに憲法改正手続きを定めた国民投票法案の成立を図る考えを内閣記者会のインタビューで強調した。与党は、修正協議を進めていた民主党が賛成しなくても、単独で修正法案を成立させる構えを見せている。
 
  安倍首相は「象徴的に憲法記念日までに(法案を)上げることが大切という気持ちがある」と述べた。今年は憲法施行六十年となる節目ではあるが、なぜそこに期限を区切って法案を成立させねばならないのか、理解し難い。
 
  憲法改正には、衆参各院の総議員の三分の二以上の賛成による発議と、国民投票による過半数の賛成が必要だ。国民投票法案は昨年五月、自民、公明の与党と民主党がそれぞれ国会に提出した。与党は民主党と協調するために修正作業を進めてきた。
 
  インタビューで安倍首相は「なるべく多くの方の支持を得るのが望ましい」とも述べ、与党だけでなく民主党の賛同を得たい考えを示した。
 
  だが、単独での法案成立も辞さない与党側に民主党が抵抗を強め、協調路線は崩れつつある。法案採決の前提となる公聴会の十五日開催に、法案そのものに反対する共産、社民を含めた野党が反発し、八日の衆院憲法調査特別委員会開会が見送られた。国民投票法案は今後の国会審議の大きな焦点となりそうだ。
 
  与党側は、法案の審議時間が八十六時間に達していることや、民主党を含めた修正協議の結果、相違点がわずかになっていることなどを公聴会開催の理由にしている。
 
  しかし、憲法改正の是非を含めた論議が渦巻く中で、手続きを進めるための法整備を急ぐ必然性は見いだし難い。投票法案の前に、憲法が時代に合わなくなって不都合が生じているのかなど、問題点の議論や検証を重ねて国民的な合意形成を図ることが求められようが、十分進んだとはいえない。
 
  法案の中身では、国民投票の対象を憲法以外の国政の重要課題にも広げる民主党案は、もっと検討していいだろう。国政に直接民主主義的要素を取り入れることであり、現在の代議制を補完する機能を果たし、国民の意思決定の幅を広げる可能性がある。
 
  日本では地方レベルでの住民投票制度は整備が進んできたが、国政ではなかった。新たな制度設計だけに、時間をかけた議論が必要だ。
 
  安倍首相には、国民投票法成立を夏の参院選に向けた政権アピールにしたい思惑もあろう。しかし国の政治システムの根幹にかかわることだ。性急であってはならない。
 
 
『毎日新聞』社説  2007年3月9日
国民投票法案  自民・民主合意が不可欠だ
 
  憲法改正の手続きを定める国民投票法案について、安倍晋三首相が今国会での早期成立に改めて意欲を示し、自民党内では月内の衆院通過を目指して与党単独で採決するのもやむを得ないとの声が出てきた。
 
  毎日新聞は憲法に改正条項がある以上、そのための具体的な国民投票の仕組みを定めるのは当然だと考えている。これが即、改憲につながるから手続き法を定めるのも反対だという立場は取らない。
 
  ただ、言うまでもなく憲法改正を国会が発議するには衆参各院で総議員の3分の2以上の賛成が必要となる。それにつながる重要な手続きだけに、少なくとも与党と野党第1党の民主党との合意が不可欠ではなかろうか。しかも、自民党が成立を急ぐのも、民主党がブレーキをかけるのも、統一地方選や7月の参院選をにらんだ政治的思惑によるものだ。国の基本となる憲法にかかわる法案を駆け引きの材料にすべきではない。
 
  これまでの与党と民主党の協議では、投票年齢を18歳以上とし、法公布後3年は憲法改正原案を審査しないことなどで大筋合意をみている。「18歳以上」はかねて私たちも主張してきたところであり歓迎したい。そして、残る相違点は、国民投票の対象を「憲法改正に限る」(与党)か、「重要な国政問題にも広げる」(民主党)か−−などに絞られてきている。
 
  ところが最近は法案の中身と別の次元で動いている。
 
  憲法改正が参院選の争点という安倍首相が成立を急ぐのは、国民投票法案は改憲のスタート台であり、「安倍カラー」が発揮できるテーマと考えているからに他ならない。できれば5月3日の憲法記念日までに成立させたいというのもアピール度が増すと期待しているのだろう。憲法問題をクローズアップさせることで「民主党は憲法改正問題ではバラバラだ」と批判する狙いもあるとみられる。
 
  対する民主党の小沢一郎代表は法案の必要性は認めながら、緊急性はないとの立場だ。そこには国民投票法案に反対の社民党とも選挙で協力したいという期待もある。成立させたところで安倍首相の得点にしかならないとも考えているはずだ。しかし、一枚岩ではないお家事情は既に与党側に見透かされており、中途半端な対応は国民には分かりにくいと映っているのではないだろうか。
 
  憲法改正に必ずしも積極的ではない公明党は、与党単独で強行突破するのは支持者の反発を受けかねないと懸念しているという。これもまた、目前に控えた選挙をにらんでのことだ。
 
  同法案を審議する衆院憲法調査特別委員会は8日、自民党が法案に関する公聴会を15日に開催する日程を決めようとしたが、民主党などが反発し、委員会自体が開かれず日程決定は先送りされた。
 
  自民党、民主党ともに今一度、合意への努力をすべきである。手続き法案審議でこの「政局優先」の有り様では、よりよい憲法改正などおよそ期待はできないということになる。
 
 
『南日本新聞』社説  2007年2月28日付
[国民投票法案] 広告規制の理由はない
 
  憲法改正手続きを定める国民投票法案は、与党と民主党がいずれも当初案の修正をするなど、論議がかなり進んできた。
 
  当初の与党案から、新聞などの報道をめぐるメディア規制条項が削除され、投票権者の最低年齢も20歳から18歳に引き下げられるなど、民主党案に歩み寄る修正がなされた。隔たりが大きかった問題にも双方の譲歩が見られる。
 
  与党案には予想投票の公表と虚偽報道の禁止をうたった規定もあったが、「報道の自由」を重視する立場からの反対を受け入れ、削除された。そのことは高く評価したいが、憲法が保障する「表現の自由」の観点から看過できない重要な問題が浮上してきた。改正の賛否に関する新聞、テレビなどの広告に法的規制をかける条項の妥当性だ。
 
  昨年末公表された与党修正案には、広告だけに限っても多くの問題点が残っている。まず投票直前2週間は、法に定められた国会などからの広告を除き、国民投票運動の広告を禁止する規定が残った。対象となる媒体がテレビ、ラジオだけでなく新聞にも拡大されている。
 
  資金力のある者によって広告が支配されるのは望ましくないということなどが、広範な禁止の理由とされる。
 
  だが、広告にも表現の自由の保障を認めるのが裁判の先例だ。修正案が、報道には制限はかけないとしながら、広告は制限するというのでは一貫性を欠く。投票前広告にだけ法的な規制をかけるのは勇み足ではないか。行き過ぎた法的規制は民主主義に似合わない。
 
  政党が非政府組織(NGO)、市民より優遇される仕組みにも疑問がある。政党には国民投票運動の自由が保障されるほか、テレビ、ラジオ、新聞に無料で意見を掲載させることも認められている。NGOや市民が運動を禁止されている期間も、政党は意見表明が可能だ。
 
  このように政党情報を中心として投票直前の運動が繰り広げられることが健全なのだろうか。国民の意見を代表するのは政党だけではない。政党を優遇する合理的根拠はどこにあるのか、納得できる説明がほしい。
 
  日本新聞協会は先月末、新聞への意見広告について「自由な意見表明、情報流通を阻害するような規制には反対」という意見書を衆院へ提出した。与党側は通常国会での成立を目指しているが、論議はまだ不足している。期限を限らず、あるべき国民投票の姿を探るべきだ。
 
 
『熊本日日新聞』社説  2007年2月20日
 
 国民投票法案  政党アピールの具にするな
 
  「憲法改正に関する国民投票法案」の成立に向けた自民党内の動きが加速している。二階俊博・同党国対委員長は、民主党との修正協議が不調に終われば、与党単独で修正案を提出し、憲法施行六十周年に当たる五月三日の憲法記念日までの成立を目指す考えを明らかにした。
 
  安倍晋三首相も一月二十六日の施政方針演説の冒頭、「新たな国家像を描いていくことこそ私の使命」とあらためて改憲への意欲を示した上で、国民投票法案については「今国会での成立を強く期待する」と表明している。
 
  国民投票法案は、改憲に必要な国民の承認を得るための投票手続きなどを定めるものだ。憲法九六条には改正規定があるが、これまで長い間、具体的には整備されてこなかった。法治国家の不備とも言え、法整備に向けた与野党の取り組みは自然である。
 
  一方でこの法案の重要性を考えれば、与党が最初から成立への期限を区切ったり、協議を尽くさないまま単独採決することには賛成できない。憲法に対する国民の意思表明の機会を保障する法案であり、拙速の議論は避けるべきだ。
 
  共同通信社の世論調査によれば、今国会の最重要テーマは「税金や財政改革」とする回答が27%と最も多く、「憲法改正」は3%でしかなかった。民意をみれば殊更に成立を急ぐ必然性はない。それにもかかわらずこの法案が、夏の参院選を控えて政党のアピールの道具に使われるとすれば、強い危惧(きぐ)を感じる。
 
  国民投票法案は昨年五月に自民、公明両党と民主党がそれぞれ法案を提出。衆院憲法調査特別委員会の審議などを通じて修正協議が進んでいる。
 
  三党は昨年末閉会の臨時国会までに(1)投票権者の最低年齢を二十歳から十八歳に引き下げる(2)新たに衆参両院に設ける憲法審査会での具体的な改憲案の審議を三年間凍結するなど九項目の修正で大筋合意した。
 
  また、当初の与党案に盛り込まれていた新聞などの報道をめぐる規制条項も、報道の自由を重視する立場からの反対を受けて削除された。三党のこうした取り組みについては評価できる。
 
  しかし、憲法が保障する「表現の自由」を侵しかねないメディア規制が消えたわけではない。改正の賛否に関する新聞、テレビの広告に対して規制を加えようとする条項がいまだに存在している。
 
  与党が公表した修正案(要綱)は、法が定める国会などの広告を除き、投票日前二週間は非政府組織(NGO)や市民による国民投票運動の広告を禁じているが、政党だけは例外として意見表明や投票運動の自由が保障されている。
 
  しかし、広告の分野でも表現の自由は保障されるというのが一般的な考え方であり、なぜ政党だけが優遇されるのか、合理的根拠があるとは思えない。
 
  日本新聞協会は既に、新聞の意見広告へのあらゆる法規制に反対する意見書を衆院に提出した。国民投票に当たっての賛否表明は可能な限り規制を加えず、メディアの自由な活動や市民らの運動に任せることが望ましい。
 
  国民投票のあるべき姿も政党間の議論にとどめず、社会全体が辛抱強く論議し、成案をまとめる必要があるだろう。
 
新聞社説集 (~2007/04/13)