自然を知り尽くした「知性の泉」
 
 小淵沢駅前商店街の細川金物店のご主人、細川勇二さんは、ただものではありません。森や渓流に住む野生の生き物たち、きのこや山菜など、自然に対するその畏るべし知識量の豊富さは、まるでこんこんと湧き出ずる泉のよう。「分からないことがあったら、まず細川さんのところに行ってみよう。」と、周りの誰もが頼りにする、博物学者なのです。
細川さんの「知性」は、学校で教わる授業や、教科書から得たものだけではありません。大自然の中を駆け回り、自ら体験するにことよって培われたものです。
そんな細川さんに、この度、「へぼ追いの極意」を教わりながら、森の中でお話をうかがってきました。
●へぼ追いの達人
「それこそ、ここいらの地元のねいてぃぶな人たちは、7月中旬を過ぎたら、「へぼ追い」に繰り出しますよ。無尽の仲間、同窓生のみんな、部落の仲間、など、グループが色々あってね。お弁当やお酒を持ち寄って、みんなでわいわい森へ「へぼの巣」を見つけに行く。いわば、宝探し。昔ながらのレジャーですよ。」と、少年のような笑顔でお話くださる細川さん。へぼとは「蜂」のこと。山国では、昔から大切なタンパク源として、また、貴重な珍味として、「蜂の子」つまり「へぼの子」採りが行われていたそうです。「へぼの子を採るためには、へぼが沢山入っている蜂の巣を探さなくてはならない。大きな巣が発見できたら、それこそ宝の山をあてたのと同じ。みんな、興奮しますよ。」と、細川さんがクーラーボックスから取り出したのは大きな天然もののニジマス。なんと、今朝3時に起きて、釜無川の支流を遡り、釣ってきたとか。
 「えーーー!こんな立派なニジマスを、蜂のえさにしちゃうんですかー??」と、我々が慌てるのをよそに、見事な手さばきで、魚をおろして切り身に。それを針金に通して、森の木々に吊していきます。
「蜂の通りそうな道にぶらさげておきます。匂いがぷんぷんするからね。待っていれば、必ず蜂がやってきますよ。」
その目は、もはや、眼孔鋭い達人の眼差しに。木々の合間をきらりと舞う蜂の羽の動きを見逃しません。
 匂いに吸い寄せられてきた蜂に、彼らの口のサイズにちょうど合うよう、小さく切り取っておいた魚の肉をくわえさせます。その餌には予め、目印用の真綿や発砲スチロール(梨など果物にかぶせてある白いネット状のものを小さく裂いたもの)を糸で結わえ付けてあるので、その、白いひらひらする目印を追っていけば、彼らが戻る巣を発見できるというわけです。とはいっても、飛ぶ蜂の後を追うのですから、それはものすごいスピード。さらに、森の中の道は、野生の障害物も沢山・・・そこは、なんのその、自然児細川さんは、見事に分け入って、お宝を発見します。

痛い目にあって痛みを知ることが大切!
  へぼ追いだけにとどまらず、渓流の岩魚や、保護が叫ばれるホタルの生態、など、次から次へと興味深いお話をいただくなかで、最後に、細川さんから、思いがけず、今の子ども達、子育てをしているお母さん、お父さんにむけて、貴重なメッセージをいただくことができました。
 「僕らが子どもの頃はね、怪我をするのは当たり前だった。農作業中に鎌で手をざっくり切ったり、友達同士で、青竹を削って作った弓と矢で、撃ち合いっこをしたり。もう、体中が傷だらけでしたよ。だけど、それだから、ちゃんとお互い痛みが分かるんだよね。あ、血が出ると痛い。って、リアルに実感できる。そうすると、逆に、他人のことをむやみに傷つけようとは思わなくなる。今の子ども達はなんでもあぶない、あぶない、って先に止められてしまうからね。怪我なんかほとんどしたことないんじゃないかなあ。そうすると、逆に、おっかないことをおっかないと思えなくなっちゃって、かえってあぶなっかしい気がしますねえ。自然の中で、もっと、本気で遊んでみたらいいと思いますよ。」
2005年8・9月号 森の博物学者細川勇二さん
「知性の泉」はご主人同様、
奥様からも溢れています。
生きている蜂を焼酎に漬けておくと、
虫さされに効果抜群のお薬ができるそうです。
真っ赤な腫れもすうっとひいてしまう
というから、びっくり!
 へぼの子は、ピンセットでひとつひとつ、巣穴から引っ張り出してやります。これが手間がかかるの!大きい蜂の巣になると、一晩かかってもたりないくらい。取り出したら、へぼの子の水分を飛ばしながらフライパンで炒め煮します。日持ちが悪くなるので油は使っちゃだめ。砂糖じょうゆで、甘辛く味つけし、汁けがなくなる寸前まで煮ます。途中で味を見ながらお好みで。濃く味つけすると長持ちしますよ。あとは、炊きたてのご飯に混ぜるだけ。佃煮を作っておけば、いつでも手軽にへぼご飯が味わえます。また、子だけでなく、親蜂も食べられますよ。蜂の巣を取るとき、煙幕を使うでしょ。その時気絶した親蜂をそのまま即冷凍しておくの。そうして、中温の油でからっと揚げて、お塩をぱらぱらっとふっていただきます。へぼ追いのあとは、いつもみんなでこの珍味をいただくのが楽しみのうちの一つです。