自然資源管理論
流域単位で、市民・住民と、諸官庁、NGO、企業等がパートナシップを組んで、自然環境の保全と利用を考え、森林、農地、緑地、保護地の管理を行っていくような仕組みが作れないか、と考えている。
もう帰って来てから6年がたつのに、未だに公表しきれていない1年間集中調査した米国マサチューセッツ州の事例を早く全部出すことが緊急の課題。特にウェストフィールド川における州政府主導の「流域チーム」(Watershed Team:連邦・州の自然資源管理関係官庁,地元自治体,流域保全NGOなどが恊働)事業の評価を出さねば。
かつて、共同研究を行ったNZの資源管理法の分析をどうやってまとめるかも課題(調査チームの皆様すみません)。ひとまずは,資源管理法の失敗例と言われた(実はそうではない)Far North Districtの事例をまとめること。
国内では,この数年少しずつお手伝いをして来た「赤谷プロジェクト」(日本自然保護協会と林野庁関東森林管理局,赤谷プロジェクト地域評議会の恊働による長期の森林管理プロジェクト)をどう評価するかが大きな課題だが,ひとまずはちゃんと役に立つお手伝いをすることが課題か。お手伝いの中身としては、2007年度に集中的に行った旧三国街道フットパス網計画は小休止の所で、2009年は国有林の管理経営計画改訂に合わせた赤谷プロジェクト地域の経営計画を、いかに住民参加型で行っていくかという、非常に重いが、エキサイティングな課題に取り組むことになる。
市民参加論
上記課題とも関連しつつ、特に参加がうまく行かない紛争の過程を、自然保護問題を中心に見てきた。白神山地、リゾート問題など。
農工大に移ったので、里山管理などへの市民参加についても研究を始めている。具体的なワークショップの技術などにも、岩手大学時代の農村計画の同僚たちとの一連のむらづくり支援活動の経験から興味を持っている。
筑波大で「森林利用・合意形成論」という講義をさせていただいており,一昨年度までやっていた「森林環境経済学」(東大)や農工大大学院での「森林ー人間系科学論」(少人数の学生との密度の濃い議論がとても刺激的)でも同じテーマを中心として扱って来た。
要するに,これまでの自分の調査や他の研究者の研究をもとに森林や自然の保全問題に関する紛争事例、成功事例を分析し、市民参加・住民参加とは何か,合意形成はどうあるべきか,自然資源管理の具体的なあり方は何かなどについて考えるものである。紛争事例としては,保護地域の問題として,白神山地,知床,タムダオ国立公園(ベトナム)、農山村における自然保護の問題としてサホロリゾート(北海道),ファーノース(NZ)、都市近郊の森林の問題として海上の森(愛知万博),池子の森(逗子)などがある。また、「成功」事例としては,愛知万博検討会議,知床世界自然遺産地域(知床財団,科学委員会)、赤谷プロジェクト,マサチューセッツ州の流域チームを中心とした流域管理,同じく同州における規模の異なるランドトラストのパートナーシップ,鶴見川流域ネットワーク(TRネット)、湖水地方国立公園(イングランド)の公園管理などである。
毎年,少しずつ内容を変えながら繰り返し授業で話しているうちに,だんだん自分なりの考え方,捉え方が固まってきた。そろそろ何かまとめられないかと考え出している。
観光と地域
グリーン・ツーリズムやエコツーリズムなどの新しい観光についていろいろ考えている。私は必ずしもこうした観光の推進派ではない。むしろ慎重派かもしれない。お気楽に,地域づくりにはグリーンツーリズムです、などとは言えない/言いたくない。地域づくりの大きなツールとしてツーリズムがあることは当然認めるのだが,それはどこでもできることではなく,また地域に与えるインパクトも非常に大きいからである。
これまでグリーンツーリズムについては、岩手県を中心に実態を調べ、また立ち上げへの協力などを行ってきたが、現在は長野県内などでの試みをいろいろ見せてもらい,もう一度勉強している段階である。また、2006年度から、森林総研と協力して、山形県金山町を中心にした地域のグリーンツーリズムについて考えるプロジェクトを行ってきた。久しぶりの仲間との集落悉皆調査で,いったい何がつかめたのかを明らかにしなくてはならない。
一方,もう一度、リゾート開発についても、見つめ直したいと考えている。何しろ,わたしの博士論文は、観光資本と地元集落との対抗・協調関係を、別荘地、スキー場開発を中心にみたものだったのだから。
野外レクリエーション計画
ROSに関しては、国有林「レクリエーションの森」への導入に関わり、マニュアルづくり,研修会での職員指導などを行ってきたが,資金問題,担当者の交代,奥入瀬の訴訟問題などから停滞しているのは無念。今後も粘り強く普及に取り組んでいきたい。明るい話題としては,北海道ニセコ神仙沼自然休養林においてワークショップによるROS調査が行われたこと,小笠原,八幡平,旧三国街道(赤谷プロジェクト)などで、私たちの作った簡便な手法をもとにした調査が行われつつあること。
なお,もう十年は続けている北海道を中心とした仲間たちとの「山岳レクリエーション管理研究会」は,わたしにとって最も楽しい議論と実践の場である。数年に一回は解散話が出ているようにも思うが,この数年は,年2、3回の開催にとどまっているこの任意団体の活動をこれからも大事にして行きたい。
住民と保護地域
ベトナム、イングランド・ウェールズ、そして白神で、地域住民にとっての国立公園などの保護地域( Protected Area )の意味について考えてきた。最近は世界自然遺産地域に登録された知床でも調査を徐々に行っている。昨年度訪れたNZトンガリロ国立公園における先住民マオリの国立公園管理に関する考え方は非常に興味深かった(トンガリロは彼らにとっては聖地である)。
また、ともすると「営造物」公園の陰に隠れていた「地域制」自然公園について、国際比較を行いながら、その意義をアピールし、日本の自然公園制度をよりよい方向に変えていきたいと考えている。そのため,昨年度から,研究仲間たちとイングランド・ウェールズ,イタリアを訪れて,集中的な調査を行っている。
2005年秋、自然公園研究会(http://homepage3.nifty.com/elm/naturalparks.html)という組織が若手の研究者を中心に作られ、活発な活動を開始しており、私も混ぜてもらっている。これまで、いくつかの研究分野に分かれてバラバラに行なわれていた自然公園管理の研究を一気に進めることを目的としている。中心メンバーのディシプリンは、林政学、環境経済学、造園学、観光学、人間生態学など幅広い。2008年11月には、この研究会を母体に、韓国ソウル大学教授の金星一さんと秋田の国際教養大学教授の熊谷さんたちが中心になって東アジアの研究者を中心とした国際学会International Association of Protected Area Stewardship (IAPAS)も立ち上がった。2010年名古屋開催の生物多様性条約締約国会議(COP10)に向けて何ができるか模索中。
自然地保全NPO
苦し紛れの造語なのだが、米国のランドトラスト、流域協会、日本のナショナルトラスト、森林ボランティアを一緒に考えようと考え出した概念。住民が主体となって身近な緑地、森林、河川湖沼を保全しようとする運動を、特にその組織のあり方、パートナーシップのあり方に注目してみたいと思っている。また、土地保全の手段としてのConservation Easement(保全地役権)、Conservation Covenant(保全契約?)にも興味がある。後者は、ニュージーランドで、住民、自治体や自然保護団体の保全上の「武器」として有効に使われていることを最近になって知った。
アメリカの尊敬している林政学者Sally Fairfaxが、最近、ランドトラスト研究を集中的に行っている(「Conservation Trusts」「Buying Nature」)。私の勘が間違っていなかったことが証明されたように思え、とても嬉しい。また、アメリカにおけるグリーンラインパーク(地域制自然公園)運動とランドトラスト運動との関連が見えてきて、俄然面白くなってきた。
比較森林政策
比較森林政策論と言えば,北大名誉教授の石井先生の名が挙げられる。そうした新しいジャンルを当初はかなり根強い抵抗があった中で,強引に一人で立ち上げ,認知を獲得した石井さんはさすがである。実は,ご本人はおそらくお忘れだろうが,この分野名を先生に焚き付けたのは,誰あろう私である。いわば「名付け親」であり,また自分の専門分野としても3つの一つとして標榜しているのだが,現実に比較をちゃんとやっているかと言えば,非常に怪しい。苦し紛れに言えば,現在は,比較のためのパーツを蓄積している段階であり,近い将来,本格的な各国の政策比較を行ないたいと考えている。
森林認証
以上の「専門分野の説明」には,林政学が専門とは言いながら,まったく「林業」が出て来ない。ようやく出て来るのが森林認証制度である。ただし,これも実践が主になっていて,研究はスウェーデンの現状を紹介したものだけである。現在,SGECの二つの審査機関の審査委員を兼務しており,例えば日吉町森林組合での経験などは,私の林業に対する考え方に大きなインパクトを与えてくれた。今後,実践的な経験を踏まえて,どのように客観的な私なりの捉え方の提示をしていくかが問われるところである。
林業
土屋は林業のことなど何も知らないのではないかと学会の皆さんは思っているかもしれないが,実はそれほどひどい状況であるわけでもない。林政学,森林政策学の講義を,かれこれ10年以上やっているし,特に農工大に移ってからは,私しか林政系の教員はいないので,毎年一人ぐらいはこてこての林業を卒論,修論でやりたいという学生が来るので,一緒に勉強し、調査にも最低限は行くようにしているからである。
ただし,この分野で自らすすんでテーマを設定し研究を進めてはこなかったことは事実で,強い分野とは言えないだろう。今回,幸いにも,林政審議会の施策部会(森林・林業白書の内容について議論する場)に入れてもらえることになったので,積極的に関わっていろいろ林政全般について勉強させてもらうつもりである。
山村
山村は観光や森林管理の行なわれる場であり,それなりにいつも気にして来たつもりだったのだが,本格的に山村について勉強しようという学生があらわれて,実はまともに勉強して来なかったとう事実を思い知らされている。
個人的には,数年前に,九大の佐藤さんに連れて行ってもらった宮崎県諸塚村が最も気になる現場である。林業を中心とした山村振興に取り組んできた村であることは周知のとおりであるが,森林認証,産直住宅,グリーンツーリズム、伝統芸能(神楽)、公民館活動と、いくつもの切り口から様々なことを考えさせてくれる場である。社会の成り立ちや周りの環境は大きく異なるが,この数年森林総研の奥田さんに連れて行ってもらっている山形県金山町も、同じようにとても気になる現場と言える。
もう一つ,複数の学生が論文作成のための調査でお世話になり,昨年度からは,少人数の1年生を連れて行く学科の実習も始めさせてもらっている長野県大鹿村とは,これからもおつきあいを続けていけたらと思っている。
※最新更新日:2009年2月6日