最上小国川・穴あきダム計画
 
海を感じることのできる
数少ない天然河川・最上小国川
 
 山形県・最上小国川。この川は宮城・山形両県の県境に連なる扇岳付近の山々を源とし、最上町、舟形町内を西流しながら最上川に合流する。流路延長は約36kmであり、全国規模で見れば中規模河川の部類に入るといえる。
 最上小国川(以下:小国川)の特徴はなんといっても、山形県内において、いや東北地方においても希少といってよいほど、天然遡上の魚類が多いことであろう。この川の天然アユは姿形・香り・味の三拍子が揃うことから「松原アユ」と称され、その味は全国のアユ釣りファンが認めるほど。アユという魚は河川の状態によってその味が大きく左右されるが、上流にダムのない小国川は、清冽さゆえにアユのエサになる良質な珪藻を育み続け、結果、アユの味を際立たせているようだ。
 このほか、サクラマスが遡上することでも有名。同時に良型ヤマメの川としても人気が高く、本流筋では時として尺ヤマメの数釣りすら可能な時期もある。
 フライフィッシャー諸兄にとっては、支流の最上白川にC&R区間が設定されていることから、むしろこちらをご存知の方も多いことだろう。ただし最上白川は堰堤が多く天然魚の遡上を望むべくもない。対して小国川本流は現在でも海との繋がりを強く感じることのできる川、ということができるのだ。
 そんな小国川にダムの建設計画が持ち上がったのは平成3年。山形県が予備調査を実施したことに始まり、平成7年度には実施計画調査に着手。平成13年には地元と学識経験者からなる「最上小国川ダムを考える懇談会」が開催されるなど、ダム論議は次第に現実味を帯びるようになる。
 さらに平成18年春には最上川水系流域委員会・最上地区小委員会が開催され、小国川の治水計画について議論されたが、委員会を事実上仕切るのはダム建設を推進する山形県。さらに委員を選定したのも同県であることから、「ダム推進派による推進のための委員会」だと揶揄された。
 小委員会当初、反対派として委員に選ばれたのは小国川漁業協同組合の沼沢勝善・組合長ただ一人だった。しかし他の委員が繰り広げる「ダムありき」の議論に嫌気がさした同氏は、第2回小委員会を持って委員を辞退。その後は淡々とダム推進論が進められていった。
 
 小国川の重要な治水計画を議論する場でありながら、開催数はわずか6回。前号でお伝えした淀川水系流域委員会の500回とは比べるべくもない。十分な議論を尽くさないまま、小委員会は「穴あきダム案」を採択。この案は引き続き最上川水系流域委員会でも採択され、平成19年11月末には齋藤弘・山形県知事が「穴あきダム案を採用する」と表明し反対派市民を落胆させた。
 この時、ダム建設が決定したかのように思い込んだ人もいたようだが、単に県の方針が固まっただけのこと。手続き上、全国各地のダム計画と同じ扱いになったにすぎない。
 例えば熊本県の球磨川水系に計画されている川辺川ダムも、漁協(および漁協組合員)の意見を蔑ろにしたまま進めたため、いまだに本体工事は着工できないままだ。むしろ「もう川辺川ダムはない」と流域では考えられており、漁協不在の計画が頓挫するのはダム事業の常識となりつつある。
 その現実を無視したまま穴あきダム案の採用を発表した齋藤弘知事は、自らの見識のなさを露呈したにすぎず、また漁協を抜きにして「穴あきダムが妥当」とした最上川水系流域委員会の議論にしても、いかに拙速なものであったかは容易に想像がつく。
 結局、事業主体の県ではなく、第三者による事務局運営と委員の選定、これなくして中立公正な委員会と呼ぶことはできないのである。ましてや漁協が反対している以上、現時点においてダム着工は不可能に近いといえる。
ダム議論の焦点は赤倉温泉の治水対策に絞られつつある。もっとも現実的なのは危険地域で営業する温泉宿数軒の移転。しかし推進派はあくまでダム建設に固執し続けている