今週末も、8月6日の市民の日の祝日が土日と重なり、ロングウィークエンドとなっている。このところ、カナダは、28度〜32度という真夏の暑さが続き、雨がなかなか降らないので、芝生や木々が乾燥しきっている。そして、たびたび黒雲がたちこめて、まさに雨が降るかと思った瞬間に光る稲妻が、乾燥したそれらに火をつけるような火事が時々おきている。黒雲は、すぐに過ぎ去り、乾燥した空気が残るだけ。このところしょっちゅう消防車のサイレンの音が聞こえるのは、その火事のせいらしい。ゴルフ場の大木に、雷が落ちて半分が裂けていたり、木の片側の皮がすっかり剥けていたりするのを見ると、落雷の恐ろしさを痛感する。
 
カナダの盛夏に、人々は一見気楽に自然を謳歌しているようだが、その緑を維持するのは大変で、時には負担にさえなる、と住んでみてつくづく気がついた。どの町のメインストリートにも、街灯に色とりどりのペチュニアのハンギングバスケットが丸くなって下がっているが、これも一日二回市の水まき車が、連日努力している結果だ。昨年オーストラリアのメルボルンでも水不足で問題になっていたが、今年は久しぶりにカナダもかなりの水不足のようで、政府公報のテレビ放送では、
  水を節約しましょう!
  ガソリンも節約しましょう!
  地球は悲鳴を上げています!
というキャッチコピーが毎日放送されている。そのため人々の話題も勢い、地球の資源の話から庭の水撒きの話題までになり、町や森、そして庭の緑の維持のためにどのような努力をしているかの話しになる。
 
アンナが住む町の住宅は、殆ど塀をしていない。塀はプールがある家だけ義務づけられている。前庭の芝生は、通る人達が見て楽しめるように綺麗に手入れしている。水は、住所番地の奇数、偶数に分けられ、一日おきに奇数日、偶数日に水をやることが許されている。番地は、家の前に大きく書かれているから、もし違反すれば誰が見てもすぐにわかるようになっている。5〜6年前にも水不足があり、その年の8月に、もし違反してるのが見つかったら、5万円の罰金だと広報されたこともある。水は、ホースで朝夕それぞれ6時から9時まで噴水のように出し続けて撒いて良いことになっているが、もし違う日の場合は、ジョロで花に水をやることはできる。
 
水道料金は、大変安く、プールのある家は特別料金の設定をしてあるが、それ以外の家は、どれだけ水を撒いても料金は同じだ。アンナ達は、一軒家に住んでいるが、カナディアンの中には、コンドミニアム、通称コンドという共同敷地内の集合住宅で管理会社に、全てを任せて住んでいる人々も多い。コンド住まいの人達は、シニア世代や一人暮らしの人が多いのは、コンドに住めば一軒家に住みながら庭の芝刈りと水やり、花の手入れをしないで済むからだ。またこのようなコンドには、共同のプールとテニスコートもあり、もちろんその管理も任せている。管理費は、コンドの広さにもよるが、この町では大体2万5千円〜3万5千円くらいらしい。一軒家に住むと、夏の間の庭の手入れは、庭師に頼むと、普通の広さで一ヶ月2万円〜3万くらいになる。コンドの住人は、緑の芝生と植木の手入れはいらないので、手軽な植木鉢をデッキに置いて、BBQを楽しんでいる。レイクビューというコンドには、湖が目の前に見えて、町の中に居ながら、まるで森の中のコッテージのような雰囲気の住まいも多い。
 
庭は一切いらない、と思う人は、マンションに住んでいる。マンション住まいは、多くは
子供が居ないことが条件になり、高齢の人が多い。ベランダがあるので、そこから外の風
景を楽しむ事が出来る。カナダでは、オンタリオ州が、一番空気が汚れているといわれて
おり、政府もその空気汚染を改善しようと様々な取り組みをしている。アンナは東京から
来ているので、東京は、都心でも郊外でも、ベランダ、外壁、窓枠、などが相当汚れるの
を知っているので。ここでは外に置いたデッキテーブルも、殆ど公害と思われる黒い汚れ
が無いのに驚く。カナダの空気は、相当綺麗だとアンナは感じている。
 
カナダの土地は、北海道のような湿気の無い乾燥地帯なので、土地があまり肥沃ではなく、なかなか湿気を維持することができず、水やりも一仕事だ。いつも夕方にデッキでお茶を飲もうかと、ゆっくりしていると、水撒きと芝の手入れに熱心なお隣のリックが噴水式の水撒きを始めるので、同じ奇数住所のアンナは、あわててホースのところに行く、という具合だ。約3時間の水まきを、前庭と裏庭に位置を変えながらホースをしつらえて、一日おきにしても、太陽が強い日は、ハンギングバスケットの花などは、すぐに萎れてしまうので、毎日最低二回はジョロで水をやる。広い畑を持っている人は、穴がたくさんあいているホースを畑において、蛇口を開くだけにしたりしている。長く留守をする時は、日陰に入れたり、友人や、庭師に頼んででかけるので、一仕事だ。
 
8月1日の水曜日は、ゴルフ仲間7人の女性達を招いたので、その前夜と、その早朝に水を撒いて、花が綺麗に見えるよう気配りした。午前中は料理と準備で終わり、正午に次々と7人のお客が訪れた。普段は、ゴルフスタイルの女性達が、ドレッシーな服で現れて見違えてしまった。お互いが、普段ゴルフ中にはなかなかゆっくり話せないような、プライベートなことも話しながら、アンナの手料理を食し、楽しく過ごした。食事中にはワイン、そして、煎茶。最後のデザート時には抹茶をたてておもてなしをした。抹茶の甘味には、有名なトンプソンのジンジャーチョコレートにした。お茶やお花、着物、食べ物、生活習慣など日本文化の説明をせがまれて、大変だったが、話題に事欠かず、楽しいランチ会は、もう4時になっていた。最後に皆デッキに出て、
「アンナがいつも忙しくしているガーデニングってこの庭ね。さすがにとってもきれいねえ〜〜!」と口々に社交辞令も忘れない仲間達だった。
 
その日は、夕方6時にキャロル夫妻が迎えに来て、4人で一緒にここから車で40分の町で、一週間だけ公演されている、世界的に有名な「シルク ドウ ソレイユ(Cirque du soleil)」に行くことになっていた。4時からの二時間で、パートナーを助手に、大急ぎでグリンピースご飯に錦松梅でおにぎり、チャイブ入り厚焼き卵、赤ピーマンとブロッコリ黒酢和え、の簡単なもので、お弁当を4人分作り、7時半開演の会場に行く前に、ちょっとした夕食をとれるように準備した。キャロル達は、二人とも5時まで働いているので、お腹もすいているだろうと思ったが、実は、アンナが車で移動中にお弁当を食べるのが、何よりの楽しみの一つなので、おつきあいさせているのだった。スナック風の夕食の間、ガナーは、「さっき大急ぎで花に水を撒いて来たけど、今夜またやらないと足りないね、アンナ。」と言っていた。花の水やりは、いつもアンナとガナーの役割だからだ。
 
「シルク ドウ ソレイユ」は、フランス語で「太陽のサーカス」という意味で、カナダのケベック州のモントリオールが本拠地だ。火食い大道芸人だったギー・ラリベルテが、1982年にケベックの大道芸から始まり、評判がいいので、様々な大会にも出場したが、5年くらいは、経済的に苦労して、ポケットに一セントしかないような状態になり、ロサンゼルスの大会に出場したのが、1987年だった。その時、ロサンゼルスで大ブレークを起こし、北米巡業、カナダ巡業で一大人気を得て、サーカス劇団は、大成功しどんどん大きなサーカスに進化した。その独創的なサーカスは、「ヌーボー・シルク(新サーカス)」と言われている。大道芸、サーカス、オペラ、ロック、力業、道化、空中ブランコ等が、自在にとりいれられており、喜びに満ちた祝祭の雰囲気を醸し出すことに重点をおいているという。
 
初回以来、20年経った今は、常駐会場の他、世界中で巡回公演をしており、新しい芸術として名声を博している。最初の公演の時は、27人くらいだった団員は、今ではどれくらいかわからない。常駐公演会場は、米国ネバダ州のラスベガスに5カ所、フロリダ州オーランドに1カ所、計6箇所あり、2008年には、7番目の常駐公演会場が、日本の千葉県浦安市の東京ディズニーレジャー施設にオープンすることが、決まっている。日本には、すでに1992年から公演が行われて、素晴らしい人気だ。その他にヨーロッパ、南米、アジアとどこにでも遠征公演を平行して行っている。公演の種類は、約18種類程有るらしく同じ公演を観ることは、珍しいそうだ。
 
今年は、20周年記念ということで、更に進化したサーカスを楽しむことができるそうだ。カナダで出発しただけあって、動物を使わない、人間だけの身体を使った究極の芸と技であり、色とりどりの独創的な衣装、現代的な照明、これまで観た事がないパフォーマンス、こころ浮き立つ演出、客席を巻き込むパントマイムなど、全てが目を見張るものばかりだった。空中ブランコもネット無しで、二人の女性がチョウチョウのように軽やかに、楽しんで舞っていて、うっとりと見とれてしまった。アンナも、まだ10歳くらいだったら、空中ブランコを夢の仕事として描いたかもしれない、と隣の席のキャロルに言ったら、「そうね、今からじゃ空中ブランコはムリよね。」と笑われた。高所恐怖症のアンナには、ムリに決まっている。吊り橋さえも渡れないのに。夢は夢で終わることも多い。
 
4本の鉄のポールに、機械人形のように体を手で支えて床に平行に体を横にして、15人程が同じ形で上下に移動して動くのも、圧巻だった。パントマイムは、客席から一人の観客を舞台に誘ってするのだが、その即興的な動きをその客の素敵な能力のような嬉しい笑いにするタイミングが絶妙で素晴らく、キャロルは一番気に入った、と言っていた。まばたく一瞬も惜しいほど、2時間の公演は、あっと言う間に、感動と興奮の中で終わった。会場は、ホッケー試合用のドームで、円形の階段式の客席だったので、本当によく見えた。
このサーカス劇団は、ロサンゼルスで大ブレークをしたことで、お礼の意味を込めて、ロスを、「City of Anjels(天使の町)」と呼んでいるそうだ。(注)
 
そんな素晴らしい芸を見てから、駐車場に行く時に、庭の水やりをしているアンナとガナ
ーは、
「これから帰ったら水をやらなくちゃね」と庭の心配をしていた。帰りの40分の道のり、暗い空に綺麗に浮かんでいた赤いお月様が、とっても印象的だった。夜11時に帰宅したので、炎天下で水を貰わなかった花がすっかり元気をなくしていた。翌朝は、8時半からゴルフだったので、それから1時間かけてジョロで水を撒いてから寝るという具合で、時には苦行にすらなるが、アンナにとって花の無い生活は考えられない。夏と言っても、夜中の外気は、15度くらいなので、水がかかると寒いのが大変だった。
 
その翌々日の夕方、庭の水まきをしていた時、アンナの指示でパートナーが柳の木の下で、ホースの位置を変えていたら、大きな声がした。
「アンナ!ヒナ鳥がいたよ。ほら!」
といって、両手でヒナ鳥を捕まえて嬉しそうに出て来た。どうやら、木の下で親鳥を待っていたらしい。
その瞬間ヒナ鳥は、ピーピーピーと悲鳴をあげて、恐らく
「助けて!助けて!!怖いよー!」と叫び続けていたのだろう。空には、二匹の親鳥が現れて、一匹がアンナのパートナーの頭めがけて低空飛行をしながら、
「緊急事態発生!危険動物発見!ベイビー!今助けるからね!大丈夫だよ!」
とでもいうように、大騒ぎに凄まじくさえずって、何度も頭をめがけて攻撃してきた。周囲の鳥達も一緒に緊急事態を仲間に知らせるように、叫び始めた。
アンナが、「早く芝生に小鳥を置きなさい!」といっても、パートナーは、嬉しそうにヒナを手に持って感触を楽しんでいたが、すぐに芝生にヒナ鳥を置いた。
その瞬間、ヒナは、「助けて!助けて!こわいよー!」と叫びながらコスモスの群生している場所に大急ぎで避難した。そこが一番近いブッシュだったし、空からママ鳥が指示しているらしかった。ママ鳥が、赤ちゃんヒナに
「大丈夫!今パパとママが助けるからね!そこにじっとしているのよ!」とばかりピーピーと叫んでいた。その間ずっとパパ鳥は、パートナーの頭めがけて凄まじくさえずりながら低空飛行で攻撃し続けた。
 
コスモスの下に隠れていた赤ちゃんヒナは、暫くしたらママ鳥のリードで出て来て、花壇のブロック沿いに全速力で、庭を横切り始めた。パパ鳥はずっとまっしぐらに敵であるアンナのパートナーを何度も攻撃していた。まだ飛べないよちよち歩きの赤ちゃんヒナは、かわいそうに「ピー!ピー!助けて!怖いよ!怖いよ!」と叫びながら、必死に走るのだが、よちよち歩きなので4歩に一度は、すってんころりとこけてしまう。上空ではママ鳥が、
「ベイビー!頑張って、良い子ね、頑張って、もうすぐよ!」と励まして、近くを旋回し
て飛んでいた。その両親鳥が赤ちゃんヒナを守る姿は、感動ものだった。赤ちゃんヒナは、
けなげに何度も何度もこけながらも、諦める事無く
遂にブロック沿いにもう一つの木の茂みをみつけて自力で避難し隠れた。そこに母鳥も飛んで入った。暫くさえずりさえもなくなった。パパ鳥も、攻撃を止めて、ヒナの所に飛んで行った。
 
両親とヒナの緊急事態の叫び声は、まさに「蜂の巣を突っついた騒ぎ」の表現を借りれば、「鳥の巣を突っついた騒ぎ」、鳥達の阿鼻叫喚となり、何事かと両隣の家からも人々が出て来た。
「鷲が来たのかと思ったら、まあ、あなたが、(といって、パートナーを指差して)鳥一
家の天敵だったわけね〜!」と笑われた。
アンナの家の一番大きな柳の木の上のほうに、鳥の巣があって、そこにはもう飛ぶことができるもう一匹のヒナがいて、4匹家族だったらしい。小鳥達にとっては、迷惑でとんだ災難な日となった。巣にも戻らなかったから、赤ちゃんヒナが、トラウマにならなければいいけれど、と本気で心配した。
 
そのあと、アンナの家に来ていた小鳥達は、一匹も来なくなった。お隣がいうには、約一週間は来ないでしょ、ということだ。アンナ達が留守の間は、鷲がよく来て、コマドリを襲っていたので、鷲は来ないように細工したということをその時聞いた。パートナーは、「惜しいことをした!鷲にも来て欲しかった!」みたいに残念がっていた。いやはや、とんだ捕り物で、この国では、ひながたとえ巣から落ちていても、親が居る時は捕まえずそっとしておくのだ。
先日は、デッキを掃除するのに大きな音を立てていたら、恐らくデッキの下に棲んでいたリスが驚いて、方向がわからなくなったらしく、デッキに飛び上がってきて、右往左往してこちらも右往左往でびっくりした。リスもまた、あまり人間を怖がらない。前庭の深い茂みには、ウサギ一家がすんでいる、とお隣が言っていた。庭の隅々の枯れ木や枝を片付けていたら、二匹の野鳥が死んでいた。恐らくぶつかったか、鷲か猫に襲われたのだろう。
 
昨日ガナーにそのヒナ鳥捕り物事件の話しをしたら、
「立て札を立てて、『今その天敵は、家にはいませんから、安心して下さい!』と書いておいたら、鳥達も来るよ」と笑って言った。
 
キャロルは、サーカスを観た翌日から、二週間の休暇をとって、カルガリーに住むおばさん一家と会い、姪と一緒にゴルフスクールと乗馬を楽しむために出発した。お隣のトルーマン家は、毎夏の行事である、キャンピングカーでノースの湖畔に一週間の予定で犬と猫を連れて出かけた。マージョリー達もアルゴンキン近くのコッテージに出かけた。今が一番楽しい夏の日々を、こうしてカナダの人達は、自然を大切にしながら、共生を心がけている。
「地球が悲鳴を上げています!」という政府公報は、本当に印象的だ。
 
アンナのパートナーと、ガナーは、所属するゴルフクラブチャンピオンシップに参加して、今週のロングウィークエンドを過ごした。初日の土曜日の夕食は、我が家でBBQをして、その日のプレイの内容を飽きもせず話し、冗談をいいあって、我が家のトマトの成長が遅い理由をガナーが分析したりしながら、庭にソーラーのランプが灯るまで長い夜を楽しんだ。その翌日は、またゴルフの前に水まきだ。アンナは、久しぶりに静かな週末を、庭を鑑賞しながら自分の専門の仕事をしたり、読書や思索の時間を存分に楽しみ、友人と町のオープンカフェで会ったり、充実した3日間を過ごした。
 
「人生は、苦しい事があるから、楽しい事がある。楽しいだけの人生は、面白さと深みが足りない。」というアンナの父親の言葉を思い出す。「苦あれば、楽あり」の諺の解説だ。きっと水まきごときでは、使って欲しくないと言うだろう。夏は本当に心身を開放的にして、全てがポジティブに前進しているような、悩みも苦しみも青空の果てに吸い込んでくれて、
「気楽に生きよ!成るようになるよ!」と言ってくれる素晴らしい季節だ。
 
(注)参考資料の一部は、Cirque du soleilのHPより
Vol.40『 真夏のカナダの風景
アンナ
出身
長崎県佐世保市生まれ、4歳から18歳まで福島市で過ごす。その後東京在住
最終学歴
大学派遣交換留学生として、ノメンセン大学大学院理論経済学専攻
修士号取得(インドネシア共和国北スマトラ州都メダン市に2年7ヶ月滞在)
現在
1996年より日本とカナダを3ヶ月毎に行き来しながら大学教員をしている
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