なぜなら日本のゴルフは、狭い国土で環境破壊に繋がるし、社用族といわれる人たちのために作られてきたもので、一般の人のレジャーとは思えない、という印象だったからだ。
周囲の男達がゴルフに浮かれているのを見るたび、「朝4時起きして、たまの休日に家族をほったらかして、仕事関係の仲間だけでマイカーでまる一日でかけ、一日数万円のレジャーをしている男達って、どこかおかしい」と冷静に思っていた。
ところがカナダに来てみると、ゴルフ場で見かけるのは、友人同士、または家族でやってる人ばかり。雰囲気は、簡素、自然、体裁を作らない、堅苦しくない、本当に遊びたい人たちとプレイする、そしてプレイ費が安い!という良いもの尽くしだった。
そういう光景をみているうちに、本来アウトドア志向、スポーツ好きのアンナも
「ゴルフやってみたいな。。。」と思うようになった。
なにしろ、カナダは際限なく広大な自然のなか、プラタナス、メープル、銀杏、ケヤキ、柳、ライラック、ナナカマド、モクレン、そしてあらゆる針葉樹が生い茂り、クリーク(小川)が流れ、そこには鴨の家族がのんびり泳ぎ、時には鹿の一家もコースを悠然と横切ったり、リスやハミングバード、ブルージェイが飛び交い、美しい濃淡の紫色のアザミや野の草花が咲き乱れ、ゴルフコース毎に技を凝らした花壇がしつらえてある。そんな美しい自然の中を、ゴルフのボールを思いっきりぶっ飛ばして約4時間も歩いてラウンドするのだから、アウトドア大好きのアンナにとっては、魅力があふれすぎている。
そこでとりあえず街のゴルフショップでゴルフ道具を一式買い揃えた。
そして練習場に行き毎日打ってみたが、当然ながらひどく難しい。自己流では全く進歩が無いので、冬の1月末から3月初めまでの6週間好きなときにできるレッスンコースを取る事にして、街のダウンタウンにあるゴルフショプでそれを申し込んだ。
すでに顔見知りのそこのオーナーは、30代のカナダ人。
10月末に募集してたから、そのとき370ドル(当時一ドルは80円)支払って、
「週どのくらい来ていいの?」ときいたら、
「好きなだけ、来ていいですよ」というので、
「毎日来てもいい?」
「もちろん!」というので、
「なら、来年1月から6週間毎日来るからね。」
「はい、お待ちしています」
と確認して、年末は日本に帰国した。
翌年お正月が明けてからカナダに戻り、早速そのゴルフショップにワクワクしながら行った(習い事好きなの)。
以来毎日朝10時から、週5日のレッスンを始めた。一回30分の個人レッスンだ。
真剣に30分すると汗びっしょりになった。
アンナも一応教員をしているので、彼がどんな教え方をするのかという点でも興味しんしん、好奇心の固まり状態だった。彼の話では、10代にはプロゴルファーを目指してたらしい。20代にはトロントのゴルフショップの専属だったという。その頃から毎年欠かさずレッスンプロ専門のコースをトロントで習得していると、自信に満ちて
話してくれた。彼は、
「よくパートナーに教えてもらってる人いるでしょう。あれって最悪ですよ。パートナー
がプロならいいけどね。だいたいが間違って教えられて一生ゴルフは上達しないんです。
どんなことも、お金払ってプロに習うべきです。」
と自己宣伝にも余念が無い。
初日は、クラブの持ち方、体の向き、足の位置、背中の角度、頭の位置と、丁寧に指導されて、6番アイアンだけのレッスンであっという間に30分が過ぎた。
教え方も超うまく、アンナは大満足。ゴルフノートをつくって絵入りでその日に習ったことを詳しく記録するのが日課になった。
初日から体の節々がこりこりいうほどの全身筋肉痛。夜はアロマバスでじっくり筋肉をほぐしてまた翌日10時に行く、という日々を3週間近く続けたころ、
彼が、アンナのクラブの振り方をチェックする合間に、しみじみとまるで動物でも観察するように見ながら、
「アンナは、風邪ひかないんですね〜。」と唐突に言った。
「風邪は、最近何年も引いた事無いわ」と言ったら
「へ〜〜!すごいね」ってヘンに感心したような、ちょっと冷めたような感じで言った。
「なぜだろう?」と思いながら、練習に熱中していたアンナだったが、最終日に彼が言った言葉で、やっとその言葉の意味が理解できた。
「アンナ、今日で最後だね。僕も長年これをしてるけど、あなたみたいに6週間、一日も休まず来た人は、
見た事が無い。本当に驚いた。そんなに熱心に通える人がいるってことを初めて知ったよ。その努力には
敬意を表します。でも来年は、同じ料金では毎日はできませんよ。」と言うので、
「あ?どういうこと?」と言ったら、
「カナデイアンはね、レッスンといえば多くて週3回、普通は2回だよ。毎日来る人は絶対に居ないの。
アンナはすごいね、一日も欠かさず通ったんだもの。僕が良いって言ったからいいんだけど、それでは僕の儲けは無いんですよ」っていうじゃない。
もうびっくり。アンナは「約束は守る」ってのを、人生の掟としているから(結構人にだけ厳しいといわれそうだけどね)そういえば、一回毎のレッスン料を全く考えていなかったわ、と気がついた。
「あなたって、風邪ひかないんですね?」ってことは、風邪引いて休むと信じてた彼の失望の気持ちだったのね、ととても恥ずかしかった。
彼に「儲けが無い」と言わせてしまった責任をいたく感じいったのです。いやはやである。
カナディアンは、とても率直に自分の気持ちを言ってくれる、ということをその時実感して、彼にも感謝したい気分だった。きちんと考えを直接相手に伝えて、その後はまた良い関係を築くことができるのは、カナダの人々の長所だと気がついたのもその頃だ。
以来、アンナと家族は、ゴルフ用品は、なんでもかんでもその店で買うことにしたり、
夏毎のゴルフシーズン始めには毎年彼のレッスンを取って、少しでも彼の売り上げに協力した。
そのお陰で、ゴルフのスウィングは、アンナなりにかなり安定し、その先生に出会って良かったといつも思っている。その先生とアンナは、同じゴルフコースのメンバーなので、プレイしていると土日にはよく会う。
そんなわけで、現在は朝8時からスタートし18ホールをまわり、クラブハウスで仲間と楽しいランチをとり、午後2時頃帰宅して、家でゆっくりし、再び6時頃からハーフをまわる(白夜のカナダならでは)ような生活をしており、日本のおかしい男たちに負けず劣らず、ゴルフにハマってしまった。