先日、友達のジョアンと遠出をして買い物のあと、ケンブリッジという町の日本食レストランに寄った。ジョアンはゴルフ仲間でもあり、バドミントンクラブも一緒で、アンナ同様旅行好きな女性だ。そのレストランの噂は聞いていたが、アンナにとっては初めての場所だった。「SAMURA」というそのレストランの名前が、サムライのイが無いことから、疑い深いアンナは、それは正真正銘の日本食ではないかも、と思っているのがジョアンに伝わって、
「もし本当の日本食レストランでなかったら、他のところにしましょう」と言っていた。彼女は、日本食通で、日本料理をよくする。「だし」「酢の物」「みそ和え」「キッコーマン醤油」等の日本語も知っている。インドネシアのバリ島にも行った事があって、アジア料理に詳しい。このレストランの名前も、
「サムライのイが無いわね、サムラという意味があるの?」と聞いていた。彼女はこのレ
ストランを既にトライして美味しかったが、日本人としてはどう思うか、とアンナを連れ
てきたかったと言って誘ってくれた。
 
見たところ看板の日本語も全く間違いが無いし、お店の前のメニューも日本語がきちんと書いてあったから、本当の日本食を出していると思えた。カナダでもアメリカでも、韓国系のレストランが、「SUSHI」と看板を出していることが多く、殆どのカナディアンは、それが日本食と思っている。それは、ムリも無い。日本でアンナも、ベトナム料理やタイ料理に行くが、それが本当の味かどうかあまり区別がついてなく、ベトナム人やタイ人の友人と一緒に行って、説明を受けてやっと本物の味がわかるということと似ている。 
 
「SAMURA」の中で、東屋風になっている客席に案内され、早速メニューを見て、カリフォルニアロール、エビ巻き、アボカド巻きと、海藻サラダ(酢の物)を頼んだ。ウェイトレスの女性達は、アジア系の顔立ちだが、恐らくここで育ったのだと思う。しばらくすると頼んだものが出て来た。酢飯も、サラダと書いてあった酢の物の味もとってもよく、生わかめが使われていた。日本茶も美味しく、二人とも大満足し、次回は家族で来ようと約束した。
カリフォルニアロールを初めて食べたのは、昔ハワイに行った時だったが、サラダ感覚の新しい味で、とっても強く印象に残っている。それ以来、外国で寿司を食べる時(といっても、それはトロント、スウェーデンとNYだけで、他の国ではその国の料理を楽しむのが基本だ。)日本ではなかなか無い「巻き」を体験するのが、楽しみだ。最近では、東京でも様々な新しい巻き寿司を創作する板前さんに出会うので、それもまた楽しく、自分の料理のアイディアにもなっている。
 
日本食は、トロントやバンクーバー、オタワ、カルガリー、モントリオール、ケベックや、ニューヨーク等の大都市に行くと、毎日違うレストランでいろいろなメニュー、お寿司、ラーメン、その他の和食をいつも食することができるが、アンナが住んでいる場所では、殆どなく、久しぶりに日本食の外食を食べる機会に恵まれてとっても幸せだった。
 
カナダに住んでいて、全く不満は無いが、日本に帰国すると、このレストランやコンビニのひとつでもいいから、カナダのアンナの住む町に来てくれないかしら、といつも思う。それくらい、外で「食べたい食事」を手軽に楽しむことが難しい。美味しい健康的な食事をしようと思うと、手軽にはない。あるカナディアンの友人につい最近、
「ところでアンナ、あなたはカナダが好きだっていうけれど、こんなひどい食生活の私た
ちの国で、食事はどうしてるの?」
と聞かれたことは印象的だった。
彼女は、トロントに住んでいるので、レストランも選べるから、外食の殆どは、アジア系、特に日本レストランに行っていると言う。一度外国の食事を体験すると、北米のお決まりメニュー、「BBQ、ハンバーグ、ステーキ、ピッザ、フライドポテト、マッシュドポテト、フライドチキン、オニオンリング、コカコーラ、アイスクリーム」という食事が、どれだけ単調で不健康かと気づくらしい。
 
カナダでは、どの家庭でも夏の期間数えきれないほどBBQをする。このBBQの仕方も、長い開拓時代、移動したりしながらの生活の中で培った知恵なのだろう。狩猟した鹿や牛の肉を、手軽にすぐに誰でも焼くことが出来る方法から始まり、保存野菜のポテトを料理してフライドポテト、マッシュドポテト、キャベツと人参のコールスローサラダ、コーン料理というメニューが、自然に決まって来たようだ。日本では、「男の料理は、ダイナミックに」という宣伝があるが、まさにBBQは、「男の料理」そのもので、大味、大雑把だ。コーンやポテトに油やバターを使用することで、じっくりと時間をかけた料理に似たうまみを出すことに成功したのだろう。日本の精進料理に天ぷらがあるのと、少し似ている。以来、その手軽さと大雑把さから脱却することなく、巨大なゾウリのようなビーフステーキ、フライドポテト、コールスロー、ハンバーグ、ポップスが北米の食文化になったようだ。
 
そんなわけで、BBQは、夏のお客の接待には、簡単なメニューなので遊びに忙しいカナダの人々にはうってつけだ。日本の鍋物と同じく、料理はお客の前でするから、手軽で賑やかでパーティー雰囲気を盛り上げる。夏は、どこもBBQだらけ。どこの庭からもその焼く音と肉の匂いが立ちこめてくる。以前アンナが、日本で家族と一緒に一人暮らしの男性を食事に招待した時、その男性が、
「鍋物や鉄板焼きではない、家庭料理をして欲しい。」と言われたことがあり、びっくりした。家庭料理というのは、とっても時間がかかる。外で仕事をしていてもいなくても、主婦にとっては、手料理でお客をもてなすことは大変なことだ。たとえ鍋料理や鉄板焼きでも、手間はかかっている。その男性には、それを説明して無理矢理鍋物で納得してもらったのを、思い出す。家庭料理を自分専用にして欲しい時は、日本では、「一見さんお断り」の料亭があり、一夕を数十万円でしてもらうことができる。それほど、家庭に招待されるということは、簡単ではない、好意に満ちた希有なことなのだと知って欲しいと思った。
 
イギリスでは、トウモロコシは家畜のえさとして知られていたから、最初にBBQでコーンを焼いた時は、かなり抵抗が有ったらしく、今でもそのことはかなり言われている。日本人が食べる枝豆も大豆だから家畜のえさと思われていた。カナダのような痩せ地では、コーンも大事な野菜食料だ。今では家畜用と人間用が、分けて植えられており、市場では人間用のものとして、3種類売られている。いわゆる、モチトウモロコシ、スィートコーン、ホワイトコーン(ソフトコーン)だ。この地方で栽培されたものをすぐに食卓にのせられるので、味がよく、夏は、誰もがコーンを食べる。アンナも毎日一本主食代わりにしている。
 
世界のトウモロコシの約5割が、北米で生産されているということで、夏はどこでもトウモロコシ畑がみられる。北米の大事な輸出商品でもある。近年のガソリン不足で、トウモロコシから抽出されるエタノールを、ガソリンの代用品として商品開発もされ始めた。コーンと一口に言っても、人間用、家畜用、食用オイル用、パウダー用と様々の品種があるらしい。日本ではコーンの殆どを輸入に頼っているので、甘みやうまみが抜けている上に、値段も高いが、昔は、地方の農家で多く生産されており、呼び方が、200以上もあると聞いた事がある。ちなみにアンナの両親の出身地、福島では、「とうみぎ」又は「とうきび」といい、アンナは「とうみぎ」と覚えている。両親ともそれぞれの実家では自宅用の畑を持っていたので、朝取りコーンの話しをいつも聞かされていた。父親は、コーンの食べ方にこだわりがあり、アンナが小学生の時、丁寧にそのやり方を教えてくれて、つぶつぶを根元からきれいに手でもぎ取ることを覚えた。芋虫みたいな形で、何粒繋げてもぎ取ることができるか、父親や弟と競争した時の幸福な思い出がよみがえる。
 
カナダのアンナの家にも当然BBQセットがあるので、夏のお客の時は、それをするが最初の頃は、使い慣れないセットを使用して、お客さんに黒焦げのお肉を出したこともあったが、最近は、さすがに大分はうまくなってきた。
そんな体験をしながらアンナのBBQのやり方は、以下の様にほぼ決まって来た。
1、    良いステーキ肉、又は、サーモンと手作りのソーセージ。
2、    ワインと前菜(チーズ、オリーブ、ライスクラッカー、人参、ディップ)
3、    コーンは、皮付きで焼く。
4、    ポテト、ピーマン、焼きなす、タマネギをホイルで包む。
5、    ニンニク&しょうが、又は胡麻風味の醤油たれ。
6、    シーザーサラダ
7、    デザートには、季節のフルーツ(メロン、スイカ、ブルーベリー等)
8、    日本茶又はコーヒー
 
これらの材料は、日曜日の朝市マーケットで購入するのだが、週半ばなどのお客の時は、近くの農家が売っている野菜を買いにいく。なす、キュウリ、トマト、レタス、ピーマン、何でも取り立てが買えるのでとっても味が良い。
今週は、土曜日そして水曜日にお客を迎えてBBQに忙しい一週間になりそうだ。 
 
カナダでは、よくお互いに招待したり、されたりするが、その宴を頂いたら、大体一週間以内に、丁寧なお礼状のカードを郵送するやりかたで、その特別なご好意に感謝する習慣がある。必ず手紙でお礼状を書くというのは、日本でも同じことだと思う。
そのような丁寧なやり取りから、更に親密感と信頼感が深まり、交流が深まっていく。世の中がどれだけ発達しても、手書きの手紙が重要な意味をもつことは、世界中どこでも同じだと思った。電話でもなく、E-mailでもなく、静かな気持ちでこころを込めてカードを選び、文章を書き、気持ちを込めて切手を貼り、ポストに手紙を投函する。そんな手紙を受け取ったら、何度でも読み返したくなる。楽しい時間は、あっと言う間に過ぎ去って行くが、その時その時、大切な人々と過ごした記憶は、いつまでも残り、アンナのこころに安寧と幸福感がひたひたと満ちてくる。
Vol.41『 バーベキュー文化の中で
アンナ
出身
長崎県佐世保市生まれ、4歳から18歳まで福島市で過ごす。その後東京在住
最終学歴
大学派遣交換留学生として、ノメンセン大学大学院理論経済学専攻
修士号取得(インドネシア共和国北スマトラ州都メダン市に2年7ヶ月滞在)
現在
1996年より日本とカナダを3ヶ月毎に行き来しながら大学教員をしている
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