Vol.5『簡単な挑戦とリッチな挑戦の狭間で』
「お洒落じゃない人とは友達になれない」と、キッパリと言う人にここ数ヶ月で3人出会った。素っ晴らしい!そこまでハッキリ堂々と言えること、聞き逃せません。(もちろん大声でそう言ったわけではなく、みなさんサラッと言ってのけています)そう言うその方達は、リッチなお洒落を楽しんでいるように見える。お洒落だけじゃなく、生活スタイル、インテリアや人間関係もリッチに選んでいる(ように見える)。リッチなお洒落をリッチに選ぶのは、思うだけなら簡単。だからそれを実践している人が、この「お洒落じゃない人とは友達になれない」と言いきる自信に繋がっているのではないか。リッチなお洒落とはもちろん、高額な服を選べるという個人的な経済状況が関係しているのではなく、最新流行ファッションを追うのが好きとかそういうことでもなく、その人ができる範囲の最高峰をファッションでもしている感じ。「スパゲッティを作れない人とは友達になれない」とか、「車を運転できない人とは友達になれない」という種類のものとは違う前述の言葉は、きっとファッションが毎日自分に身につけるものだからだと思う。
今日、バスを待っていたら、到着したバスから幼いオンナの子がお母さんに手を引かれて降りて来た。その子の背中には、ミフィーのリュックが背負われていて、小さな背中からはみ出しそうなリュックとママに手を繋がれながら歩く姿を見ていたら、きっとお気に入りに違いない人形素材のフワフワミフィーとその子の関係が想像できた。自分で選んで買って貰ったかもしれないけれど、あの年頃は親からのプレゼントに目を輝かせて喜ぶ頃だ。親が選んでくれるものは、自分が想像もつかなかったものだったり、自分が欲しかったまさにその物だったり、まだ稼いでいないから自分では買えないものばかりだ。そのうちに自分の好みが出てきて、親の趣味を嫌がったり反抗しながら、自分流を試しはじめる。成長期って、色んな挑戦をしているけれど、ファッションもその中のひとつだった。一歩づつ、自分スタイルの服を決めていく毎日。その場の雰囲気に合わせることも時には最優先事項だったりするけれど、大人になると挑戦して行くお洒落が極端に減って行く。同じ傾向で、似たようなものばかり着ることになるのが“大人”とでも言わんばかりに。
リズムラック・ポッドキャストの第一回目に登場して頂いた、映画監督スラメット・ラハルジョ・ジャロット氏監督作品の演劇公演を見るために、9月にジャカルタに行った。2日間公演の初日は大成功だった。配役も話も舞台装置も素晴らしく、衣装も台詞の間もテンポも全て見事で、3時間公演の長さが全く感じられなかった。新聞やテレビでも話題になっていた。
2日目の最終公演日、問題は突然発生した。主役級の鍵を握る役者の声が最初の場面から出ず、かすれ声にもならない声は何を喋っているのか全く聞き取れない具合だった。悪い王様の役所、主役が決め台詞を言う前の重要なやりとりや、部下に命令する所、自分の考えを大声で話す所、観客は台詞を全て聞き取れない。どうやって問題解決をするのだろう、とものすごくハラハラしながら目もまともに開けられない気持ちで見ていたが、吹き替えの術も使わず、その役者は身振り手振りの動作で最後まで演じ続けた。(他の役者が代弁した台詞も少しはあったけれど)
公演後の夜中1時、舞台装置を片付けるチームが機材をトラックに積みこむ仕事はまだ終わっていなかったが、役者、マネージャー、スポンサー関係者、役者の家族や友人、合わせて100人位が夕食をとりながらの締めのミーティングが終わった。
「今できることはこれで精一杯だったよ」
私が帰る挨拶をしに行ったら、スラメット監督がそう言った。声が出なくなった役者とこの公演の責任は、全て監督が取ることになる。劇団員の健康管理、性格、心理状態、きっと人間関係までの全てを考慮しなければならない仕事に対する謙虚な姿勢から出た言葉に胸が詰まった。
全体の一部分でも失敗する可能性があることが、挑戦だよね。とその言葉を聞いて思った。失敗しない、と最初からわかっていることは挑戦とは言わないから、ファッションて毎日が楽しくなる可能性の高い、とっても簡単な挑戦だと思う。でも、毎日の単純作業だからこそ至極簡単に失敗もする。きっと多くの人が、外出してから大失敗に気づいた経験をしていると思う。親に選んでもらっていた服装からいつの間にか、機械的に人を押し上げるエスカレーターのように社会に合わせた服装になっていく。仕事も社会も関係なく着ていける「自由」な服はないけれど、私たちの意識はファッションにあまりにも多くの情報として露出されているから、挑戦できる環境に感謝して、挑戦すること自体がリッチな心だから、「お洒落じゃない人とは友達になれない」、私も潔くこう言えるリッチを目指したいと思った。
深町 玲
1972 東京生まれ
1974−1979 ジャカルタ在住(インドネシア共和国首都)
1995 桑沢デザイン研究所ドレスデザイン科卒業
1995−2000 インドネシア国立芸術大学留学(工芸科テキスタイル専攻)
現在 ファッションデザイン・パフォーマンスプロデュース・執筆・旅行&イベント企画等
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