7月1日は、カナダの独立記念日だった。7月4日のアメリカの独立記念日と3日違いだ。カナダはイギリスに属する連邦国家。17〜18世紀に英仏間で争奪戦が行われた後、英国の植民地となり、1867年自治領。1949年に完全独立国家となり、その記念日としている。この日は、多くの移民を歓迎する意味で、バンクーバーやモントリオールでは、式典が行われていた。
それで6月30日(土)〜7月2日(月)までの3日間、ロング・ウィークエンドと言って、カナダの人達は、これをとっても楽しみにしており、2週間くらい前から、挨拶がわりに、
「その週末は何か特別な計画してる?」
と聞き合って、気分を高めている感じがする。皆、休日については、詳しく話しをする。毎日がお休みのアンナもそんな気分に便乗して、その週末は、いろいろな楽しい計画で埋まってしまった。
 
6月29日(金)
アンナ達のロングウィークエンドは、この日の夕方から始まった。クリスティ&テッド夫妻から「ナイン&ダイン(9ホール&ディナーの意味)」にカップルで招待されたからだ。クリスティ夫妻とは、このクラブの会員になってからよく一緒にゴルフするおつきあいだが、同じ教会のメンバーでもあり、クリスティとはゾンタクラブのメンバーとしても一緒なので3つのコミュニティーを共有している。ゴルフは、会員なので無料だが、お食事に招かれたのだ。
 
午前中にすでに、他のゴルフコースでメアリーと回ってきたので、午後2時頃帰宅して、シャワーを浴び、3時のお茶をして少し休んでから出かけた。
所属しているゴルフコースは、かなり難コースといわれているが、歴史が古く、しっかりした経営、イベントが盛りだくさん、メンバーが良いので安心して楽しめることでこのコースを選んだ。この日も良いお天気に恵まれて、五時半から始めた。白夜だから午後9時半まで明るい。こんな時間は家族や友達連れが多く、夕食を楽しみにかなりの初心者もトライしている。アンナ達の前の組も、相当ゆっくりだった。アンナもあまり良いスコアとは言えず、ボールを池に落としたり、アヒルの一家を脅かしたりしながらも良い仲間と楽しんで、8時過ぎに終わったが、まだ十分明るかった。
 
金曜日の夜は、「ナイン&ダイン」に参加するダブルカップルが多く、ダイニングルームに行くと、知り合いばかり。席を立ってお互いに挨拶をし合う光景がみられる。ウェイターもウェイトレスもメンバーとそのアカウントナンバーも覚えていてくれるので、アットホームな感じでリラックスできる。大都会だと、クラブ形式のホテルやレストランで受けられるサービスが、この小さな町で受けることができるのだ。
その日頼んだ食事は、クリスティ達は、リブロインステーキ、スープ添え。アンナ達は、ロブスターに野菜の盛り合わせ。そして全員にシーザーサラダとデザートのメイプルアイスクリームの各種ベリー添えがついてくる。
クリスティは、オンタリオ州乳がん協会の理事として大活躍しており、てきぱきと仕事をこなすキャリアウーマンだ。パートナーは、近くのファイブスターホテルに勤務しているホテルマン。お互いにカップル同士でゴルフができるので、時々こうして誘い合ってプレイする。久しぶりだったことから、色々と話しもはずんで、10時に家路につくころは、空の向こうにわずかに光があって、宵闇迫るという感じだった。心地よいゴルフの疲れと、友との会話に満足した一日だった。
 
6月30日(土)
この日のデイナーにはキャロル夫妻を我が家に招いて、留守中の家の管理のお礼を兼ねて、
お食事をすることにしていた。
そのために、今年初めてファーマーズマーケットに行った。朝7時に行くと、いろいろとまだ良い品物があるとマージョリーに言われて、行ってみた。朝の清々しい空気のなかを、一仕事する気分で、マーケットに行くのは本当に楽しみだ。夏に開催されるこのマーケットは、自家栽培や自家製の食品を、直接購買者に売る場所なので、新鮮でかなりお得な値段で購入できるのが、メリットでもあるし、また市場特有の活気が、アンナは特に気に入っている。
その日の夜のメニューに必要な食品のメモを片手に買い物を始める。まず人気のお肉屋さんで、番号札を取り、順番を待つ。日本の銀行とかで番号札を取って待っているのと、同じだ。朝7時15分なのに、番号札は75番だった。番号を呼ばれるまで品定めをしていたら、ルースがすぐそばで、声をかけて来た。
 
「ハ〜イ!アンナ。珍しいわね。朝速く。今日はこれからゴルフなの?」
「あら、ルース、今日は何のお買い物?」
ルースは、ゴルフ仲間だが、今年は膝の手術で休んでいる。
どこのお店の何がいいか、教えてもらっているうちにアンナの番号が呼ばれた。
最初に、ポークゼリー、ローストビーフ、バジル&トマト入りソーセージ等を購入し、レジをしている知り合いのマーサと「久しぶりね」と挨拶を交わしながら支払った。そして次の花屋さんに移動した。大ぶりのオレンジ色のガーベラを一束、ヤマユリを二束買って、一度車に置きにいき、また買い物をする。フルーツは、ブルーベリー、イチゴ、メロンにした。野菜は、アスパラガス、黄色いピーマン、取り立て卵一ダースなどを買った。最後に珍しい「フジ」「むつ」と書いてあるリンゴを買って家に戻った。一週間分の野菜やフルーツを買ったので車のトランクいっぱいになった。
 
帰宅後、午前9時に、朝寝坊していたパートナーが準備してくれた朝食を一緒に摂って、デッキでモーニングコーヒーを楽しんだ。今年は、庭に飛来する野鳥の数がとても多い。友人によると、鷲も飛んでくるようになったから、自然と動物保護の効果があったのだという。
さて、いよいよ来客の準備として最初にするのは、テーブルセッティングだ。いつもお掃除を頼んでいるステファニーが、昨日全ての部屋の拭き掃除、掃除機掛けをしてくれたので、気持ちがよい。アンナが自分で染めたろうけつ染めの紫陽花を描いた緑色の地色のテーブル掛けを使って、和風の感じを出したテーブルセッティングにした。コースターには、北海道で買ったラベンダーの刺繍のものを使った。全て今の季節の花なのが、気にいっている。ガーベラを一輪食卓テーブルに、ヤマユリを玄関と応接間に飾り、準備が完了した。
 
お昼からはお料理だ。キャロルにあまり忙しくしないでね、といわれていたので今日のメニューは、簡単だけど味の良いメニューに決めた。
アペタイザーのサーモンのたたきは、先週の土曜日にトロント近くのアジアンマーケットまで行き、お刺身用を買って来て、それをすぐに鰹のたたき風にして、冷凍しておいたものだ。氷で冷やすと結構しっかりと味を閉じ込めることができて、いつでもサーモンのお刺身を食すことができる。アジアンマーケットに行くと、どんなものでも揃う。
 
夕方6時に、キャロル夫妻が、訪問してきた。お土産に、八重トルコ桔梗の花束、ワイン、そして自宅の庭から花の苗を持って来てくれた。アンナが大好きなものばかり。遠慮なく頂いた。最初にデッキで飲み物を出して、お互いの近況を話し、留守中の出来事を聞き、様々な社会の出来事、カナダ、日本、スウェーデンの話し等に話題は広がり、この上ない楽しい時間を過ごした。キャロルのパートナーは、お料理上手でいつも良い批評をしてくれるので、それも楽しみの一つ。今日はワインご飯がことのほか、お気に入りだった。それに添えたわさび醤油のローストビーフも美味しいと言ってくれた。飲み物とデザート係のパートナーは、前半と後半が忙しい。若い時にオーストラリアやパプアニューギニア、日本の神戸、京都、東京に滞在したことのある二人は、様々な文化を良く理解する。食後の日本茶は、お決まりのコースだ。その夜もあっと言う間に過ぎてしまった。
 
7月1日(日曜日)
この日は、夕方からマージョリー夫妻にディナーに招待されていた。
「午後ちょっと早くにいらっしゃい、面白いゲームするから!」
と言って来たので、午後4時にマージョリー宅を訪問した。マージョリー達は、アルゴンキン国立公園の近くに素敵なコッテージを持っているが、この週末の道路の混雑を避けて、週明けから行くので時間が出来たという。
 
マージョリー家は、この町の古い町並み、つまり山の手に当たる場所に位置しており、広大な庭には、樹齢100年の木が、何本もそそり立ってうっそうとしている。アンナが、
「こんな森みたいな家に住んでいても、遠いコッテージに行くのね!」
と軽く言うと、ロバートが、
「アンナ、個人にとってのパラダイスは、それぞれ違うでしょう。私にとってのパラダイスは、犬がそばにいて、森の中に座り、目の前に湖が広がる光景なの。アンナだって、東京のような大都会でなんでもあるところから、わざわざこの小さな町に来ているのは、パラダイスを見つけるためでしょう?」
と言われて、浅はかな質問を反省した。
 
マージョリーは、アンナ達がカナダに来た時以来の友達で、年齢差はかなりあるが、お互いに親友と認めあっている。マージョリーが、日本のアンナの家に10日間訪問したこともあり、本当に長いおつきあいだ。その時のことは、今でも大切な思い出として、二人は共有しているのでよくお互いの家族の話しをする。
そのマージョリーは、忙しい合間をぬって、5年かけて今年の5月に、晴れて神秘神学の修士号を取得して、盛大なお祝いをしたばかりだ。マスターを取得すると、その後その知識を本当に一般の人に伝達できるかどうかを、証明しなければならず、今はその実習期間だという。
日本の教員のための教育実習のようなもので、ウェスタン・オンタリオ大学のアイビー大学院の神学コース修士課程を卒業したので、その大学がある町で実習している。そのために毎日、教会、病院、大学などでの実習をしているので、ロバートは、彼女に新車をプレゼントした。フォードのインパラの最新の車だ。一度載せてもらったが、本当に乗り心地がよく、新車の匂いがしていい気分だった。夫からのお祝いの新車にマージョリーは、とっても感動していた。
 
アンナが、お茶の合間に、ロバートにこぶしをマイクのように差し向けて、
「ロバート、ところで、自分の妻が修士号を取得した感想は?」
と聞いた。
「そりゃあ、素晴らしく誇りに思っているよ。4人の子育てを終えて、7人の孫がいるのに、その忙しい合間に時間をかけて、マスターを取得したこと、そして今実習で良い成績を治めていること、全てが誇りだよ。また思いかけず、12歳になる一番上の孫娘以下、4人の孫娘達が、
『おばあちゃまみたいに、私も修士号を取って、かっこいい女性になりたい!』って言ってることは、想像以上の幸せで、孫娘の人生の目標になったマージョリーは、本当に素晴らしいことを成し遂げてくれたよ。」と双頬を崩して喜んでいた。
かみしめるように話してくれたロバートの言葉が素晴らしく、ご夫妻の素敵な物語を聞いたなあと、アンナ達は、暫く感動で言葉が出なかった。
二人で歩んだ長い人生の道のりの後半に、こんな喜びをお互いに分け合う幸福のお裾分けにあずかったのだ。
 
マージョリーが、
「ねえ、一緒にクリケットをしない?とっても面白いわよ」と言って裏庭に誘った。裏庭は、うっそうとした大木が茂り、その中央がひんやりとした芝生と様々な花が咲いている。
そこで、4人でクリケットをした。障害物が14カ所あって、規則を聞いて、それぞれが好きな色の木製のボールを木のツチで打って、ゴールに向かうのだ。マージョリーによると、時々ロバートと二人でこれをするという。一番楽しそうだったのは、マージョリーだった。普段は出さない大きな声や、やんちゃな騒ぎをしながら、4人でボールを進めるのだが、障害物がなかなか通り過ぎる事が出来ず、それが子供に帰ったようにとっても面白かった。
 
ゲームが終わった頃、マージョリーお得意のオーブン料理が仕上がって、一緒にサラダをつくり、飲み物をそろえて、4人で積もる話しをしながら夕食をごちそうになった。マージョリーのお料理は、数えきれないほどごちそうになったが、どれも本当に素晴らしい家庭料理で、デザートも、どのお店にもない、上等なこった味わいのものだ。今日は、ブルーベリープディングのアイスクリーム添えだった。楽しい時間を過ごして、綺麗な月夜の道を家に帰った。
 
7月2日(月曜日)
翌日の月曜日も休日でお店はどこもかしこも閉まっていて、ショッピングもできない。これが、カナダではいつも信じられない。しかし経済は日本よりはるかに良い実績がある。政治が正直で良いからだと思う。この町にトヨタが来るので、3年かけて郊外に移転したゴルフ場が、先週オープンしたと聞いたので行ってみた。庶民的なこのゴルフ場は、新しく生まれ変わり、ゴルフスクールもあって、開業時の華やかさが、入り口の豪華な花の植木鉢に現れていた。このゴルフ場は、様々な値引きのメニューで客をよく集めているので、町の人がよく利用するし、安いので若い学生もよく来るコースだ。
そこには、町の知り合いの家族もきており、和やかな会話を交わし、練習で一汗流したあと、緑が綺麗になった新コースをはるかに見ながら、真新しいデッキの椅子で冷たいレモネードを飲んだ。至福のひとときだ。
 
あっと言う間に、長い週末が過ぎ去った。いつも思うのは、人々との温かい交流がどんなに大切で、それが人間に幸福感をもたらすということだ。
カナダデイには、多くの移民を歓迎する意味で、バンクーバーやオタワ、モントリオールでは、“Welcome to Canada!(ようこそ、カナダへ)” という式典が行われていた。移民の人々に本当の祖国と思ってもらうための式典で、皆で国歌「オー・カナダ」を歌い、自分達はこころからこの国を祖国と思います、と誓い合う言葉を共に読んでいる光景が、テレビで放映された。アンナの小さい町では、式典はなかったが、友人達からそう言われたような気分だった。
 
カナダは、1949年に独立した若い国だが、イギリス等から移民した人々は、既に国家がどうあるべきかを、知っていた点が、発展途上国とは違うところだと思う。国家形成の過程で様々な紆余曲折を経て、本当の平等を研究した結果、このような気持ちのよい、微笑む人間関係がどこでもできるようになったのだろう。
バンクーバーには、”Justice Institute”という研究所がある。直訳すれば、「正義研究所」だ。これは、「それぞれの視点から正義をみつめ、何が本当に正義かを議論し学ぶ研究所」ということらしい。つまり、「正義の意味開発研究所」ということだろう。アンナもそこで2回程夏期集中講座を受けたことがある。異なる視点の発想は、目からうろこの体験の連続で、終了した時は考え方が変わり、別人になったような気分だった。
共に共存する社会を、国民全てが常に気持ち良いと思える雰囲気に、人間関係で保つような教養を、国民に育んできたカナダ国家は、これからどのようなパラダイスを作って行くのだろう、と更に楽しみになったロング・ウィークエンドだった。
Vol.38『 カナダデイ&ロングウィークエンド
アンナ
出身
長崎県佐世保市生まれ、4歳から18歳まで福島市で過ごす。その後東京在住
最終学歴
大学派遣交換留学生として、ノメンセン大学大学院理論経済学専攻
修士号取得(インドネシア共和国北スマトラ州都メダン市に2年7ヶ月滞在)
現在
1996年より日本とカナダを3ヶ月毎に行き来しながら大学教員をしている
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