写真集『大きな自然 大雪山』出版に寄せて
 
 2005年から2006年にかけて取材をともにした写真家・林明輝氏の写真集『大きな自然 大雪山』が229日に小学館より発売され、写真集の出版記念写真展が富士フィルムフォトサロン東京を皮切りに全国各地で開催されるはこびとなった。日程などの詳細は林氏の公式ウェブサイトで順次紹介されるので、興味のある方はご覧になっていただきたい。
 写真集の発売を機に、自然のなかで写真を撮るということについて考えてみた。
 
 写真撮影のガイド?——。「写真家・林明輝」と名乗る男性から初めて仕事を依頼する電話があったとき、正直言ってあまり乗り気がしなかった。じつは、カメラマンという人種、どうにも好きになれないのだ。筆者のカメラマン嫌いは、源流をたどるともう20年以上も前の話になるが、それについてはこちらのサイトを参照していただきたい。
 「花の大雪」「紅葉の大雪」として知られる大雪山には、高山植物の開花期や紅葉のピーク時ともなると、撮影者が大挙して押し寄せる。生態系への配慮を見せる"心ある"撮影者もいるのだが、お目当ての花を撮るために足下の植物を踏みつけたり、植生保護のロープをくぐり抜けて植物帯へ入ったりするカメラマンも多い。行儀の悪さを一般登山者に咎められると、逆切れして開き直る人さえいる。こういう人たちを筆者は「ゴキブリカメラマン」と呼んで、軽蔑している。
 カメラマンのなかには、写真の入門書に書かれているように「一歩前に踏み込んで」撮影する人が多い。ひとたび"はじめの一歩"が踏みだされると、次から次へと同じ場所を踏みつけたり歩いたりする後続者が出てくる。こうして植生が剥がれて裸地になり、裸地がつながって踏み跡になる。いちど踏み跡ができると、雨水が土壌を流し、風や霜や雪に痛めつけられて植生破壊がすすみ、大地の傷となって刻まれていく。"はじめの一歩"を踏みだした人の責任は重い。「一歩前に」ではなく、「一歩退く」謙虚な気持ちで自然のなかへ入ってほしい、と常々おもっている。
 カメラマンという人種と、カメラマンたちが"はじめの一歩"を踏みだしたために刻まれた自然の傷跡を見ていると、自然のなかで写真を撮るという行為と、撮影をするヒトについて、いやでも考えざるを得ない。とりわけプロの写真家には抜き難い不信感があった。写真のなかには、どう見ても、登山道を外れて撮影されたと思われる"ルール違反写真"があり、そういう"作品"を臆面もなく発表する人もいる。シロートが行けない場所でないといい写真が撮れなくてどこがプロなのか。普通の人とおなじ土俵で勝負しても素晴らしい写真が撮れるのがプロではないのか。入るべきでない場所へ入りこみ、奇を衒った画を撮るだけという低い次元に甘んじていていいのか。ましてや「自然」で飯を食わせていただいている身であればこそ、生態系へのダメージは最小限に抑えなくてはならないはずだ。
 そんな思いがあったので、林さんから撮影ガイドの仕事を頼まれたときには、正直言って、抵抗があった。だが、何度かやり取りをするなかで「ゴキブリカメラマンと言われないように、自然の中で謙虚にその表情を撮らせて頂きたい」という林さんのことばを聞くに及んで、仕事をお引き受けすることにした。あくまでも生態系に配慮したフェアな姿勢で、「新しい写真」を世に問うていただきたいと思ったからだ。
 この写真集のなかには、積雪期や沢のなかでの撮影を除いて、登山道外で撮られた写真はない。
 
自然のなかで写真を撮るというということ
2008年3月4日火曜日