徒然The World According to Goro
 
風を見た夜
2008年4月30日水曜日
 

 4月25日の金曜日の夜は、門前仲町のビルの8階にある門仲天井ホールで、詩人の末森英機さんの「office音符otonofu」主催によるイベント。題して『あなたたち 歌は蜂蜜のようだよ 香ばしい翅音 憧れをのこして めぐり時たつにつれ 心の天辺を打つ コトバたち』
 しかしこのイベントにはもうひとつ別のタイトルがあって、それは『五郎と次郎の夕べ 35年目の再会』というもの。そのコピーには、「フォークシンガー中川五郎と三宅島の仙人見習い都月次郎が35年目の再会。ずいぶん変わったね、でも変わらないものも……友情出演——津軽三味線の山本竹勇」と書かれている。そしてこの夜のイベントに向けて、それぞれ二種類のはがきが作られ、まかれていた。

 それは1970年代なかばのことだっただろうか。ぼくは都月次郎さんが1970年に出版された『タバコ屋のかどで』を吉祥寺の古本屋でたまたま見つけ、一読して都月さんの詩がとても気に入り、それからも繰り返し読むうち、中でも特に好きだったひとつの詩に曲をつけて歌い始めた。それが「トカゲ」で、この曲は1976年にぼくが作ったアルバム『25年目のおっぱい』の中に収められた。ラスト・ショウや中川イサトさんと一緒の演奏だ。
 それからぼくは都月さんの連絡先を探し当て、出来上がったばかりの『25年目のおっぱい』のLPを持って、彼のもとを訪ねた。都月さんは、1948年に栃木県に生まれ、少年時代を東京の下町で過ごしているが、その時は中野区の新井薬師でお好み焼き屋と居酒屋とを兼ねたようなお店をやられていた。そこでレコードを渡し、おいしいお好み焼きをごちそうになり、お酒もいっぱい飲ませてもらって、しこたま酔っぱらったことはよく覚えているが、二人でその時どんな話をしたのかは、あまり記憶にない。ちなみに都月さんはお酒が一滴も飲めない人だ。
「これからもお互いに連絡を取り合いましょう」、「新しい詩ができたらぜひ送ってください。また曲をつけさせてもらいます」と言い合って別れながら、いつものものぐさのせいでぼくの方から積極的に連絡することはなく、いつしか二人は音信不通になってしまった。後で知ったことだが、70年代の終わり頃から、都月さんは詩をまったく書かなくなり、親しかった詩人仲間の前からも姿を消してしまっていた。

 しかしそれから二十年ほどの歳月が流れ、1990年代の後半、都月さんはまた詩を書き始め、1999年にはほぼ30年ぶりの第二詩集『次郎ぶし』を出版した。そして個人誌の『海と猫』をスタートさせ、詩誌『1/2』にも参加して、それらで新しく生まれた自分の詩を発表するようになった。
 ちょうどその頃、今度は都月さんがぼくの連絡先を探し当ててくださり、それらの詩誌や絵はがきと詩のコラボレーション作品など、自分の書いた詩を毎回ぼくに送ってくださるようになった。都月さんの方でも、「新しい詩ができたら送ります」という25年前に交わした約束を忘れていなかったのだ。
 再び詩を書き始めた都月さんは、詩を書くだけでなく、2004年あたりから『こころの温泉』というタイトルのもと、詩人とミュージシャンとの路上ライブを隅田川の遊歩道などでやり始めるようにもなり、毎回その案内もいただいて、ぜひとも参加したいと思いながら、いつもうまく都合がつかず参加できずじまいだった。
 そして今回「トカゲ」が大好きな末森英機さんが熱心に動いてくださったおかげで、『五郎と次郎の夕べ 35年目の再会』が実現することになった。もちろん都月さんとぼくとが一緒にイベントをするのは、今回が初めてのことだ。その都月さんだが、つい最近住処を三宅島に移し、まわりにほとんど人がいない場所での独り暮らしを始められ、仙人見習いの「百人」となられたので、開催は彼が東京にやって来る時期に合わせて、4月25日となった。

 イベントは末森樹さんのソロ・ギターで始まり、それから都月次郎さんが樹さんのギターと一緒に詩を朗読。ひとりで何編か詩を朗読した後、今度は都月さんの親友の津軽三味線の山本竹勇さんが登場して、都月さんの朗読とぴったり息のあった演奏を聞かせてくれた。
 それから竹勇さんのコーナーとなって、津軽三味線の演奏と津軽の方言で高木恭造さんの方言詩集『まるめろ』の詩を朗読。その見事さにてっきり津軽の人だと思っていたが、竹勇さんは実は埼玉生まれで、自らの中に自然と流れているように思える津軽の血は、実は後で学び、身につけたものだったのだ。

 休憩の後、ぼくのコーナーとなって、この夜は「ぼくの遺書」から始める。二曲目の「For A Life」を歌っていると、何やら別の楽器の音が聞こえてくる。気がつくとこの夜ライブを見に来てくれた、こまっちゃクレズマの多田葉子さんが持っていたクラリネットを取り出して、ぼくの歌に合わせて吹き始めてくれているではないか。
 多田さんは前に出て来て、その後もぼくの歌とギターに合わせて、すべての曲でクラリネットを即興で吹いてくれて、大いに盛り上がる。多田さんとは5月20日に外苑前のZ-IMAGINEで二人だけで一緒にライブをやることになっていて、とてもとても楽しみ。その前にはリハーサルもちゃんとすることになっているので、この夜の完全即興とはまた違った二人の演奏をたっぷりとお聞かせできることだろう。
「For A Life」の後は、「イマジン」、「雪よ降れ、ヒンズークシュの山の上に」と歌っていき、光市の母子殺人の死刑判決のことでいろいろと考えさせられたこともあって「罪と罰」を久しぶりに歌った。
 それから都月次郎さんを呼んで、作者自身に「トカゲ」を朗読してもらい、続けてその詩に曲をつけたものをぼくが歌う。去年、真黒毛ぼっくすと一緒に改めてレコーディングした「トカゲ」では、多田葉子さんがクラリネットを吹いてくれていて、この曲だけはライブでも一緒にやったことがあるので、完全ぶっつけのほかの曲とはまた違って、多田さんとぼくとはお互いに「通じ合った」感じでセッションすることができた。

 実はこの日のためにぼくは都月次郎さんの新しい詩に曲をつけていて、「トカゲ」に続けてそれを歌った。都月さんが去年の秋に発表した第三詩集『くらやみの猫』(OFFICE KON/東京都中央区日本橋小網町18-16-701)の中に収められている「風を見る」という詩で、後半の部分は同じ詩集の最後に収められている、四行か五行ほどの短い言葉が集められた『くらやみの言葉たち』の中から、「風を見る」の世界と相通じると思えるものを、ぼくが勝手に何編か選び出し、同じメロディで歌っている。33年ぶりの、詩・都月次郎、曲・中川五郎の作品で、二人の共作はこれがまだ二作目。今回の「再会」をきっかけに、これからもいっぱい共作できればとても嬉しい。

「トカゲ」、「風を見る」と、都月さんの作品を二曲続けて歌った後、ラストは山本竹勇さんと末森樹さんにも出てもらって、多田葉子さんももちろん入って、四人で「ミスター・ボージャングル」を演奏。都月さんには「踊ってください」とお願いしてみたが、もちろんあっさりと断られてしまった。
 それにしても津軽三味線の入った「ミスター・ボージャングル」は、すごく不思議で面白くて、これまでにぼくが一度も味わったことのない世界。「フォーク」と「津軽三味線」は、水と油だと思ってしまうが、いざやってみると、これが何だかいい感じに溶け合って、とてもユニークな世界が醸し出される。今回はほとんどぶっつけ本番で「ミスター・ボージャングル」一曲しかできなかったが、山本竹勇さんとのジョイントも今後ぜひきちんとやってみたいし、嬉しいことに実現に向けてすでに歯車も回り始めている。
「ミスター・ボージャングル」の前後で、その日の出演者の紹介をする時、ぼくは嬉しくて興奮もしていたし、紹興酒やワインもたっぷりと飲んでいることもあって、山本竹勇さんのことを高橋竹勇さんと何度も間違って紹介してしまい、ほんとうに失礼なことをしてしまった。山本竹勇さん→津軽三味線→高橋竹山→竹山→竹勇→高橋竹勇と、ワインでかなり緩くなっていたぼくの頭は、きっとそんな回転をしていたのだろう。ほんとうに申しわけありませんでした。
 この夜をきっかけに、都月次郎さん、そして山本竹勇さんたちと一緒に、また何か新しい動きが確実に始まりそうで、とても楽しみにしている。
 最後にこの日歌った、都月次郎さんの詩「風を見る」と、『くらやみの言葉たち』の中からぼくが選んだ言葉を紹介しておきたい。


風を見る

夜の冷たさが肩をぬらす
こんな夜更けは
みんな幸せに眠っているか。
零時を廻っても
まだ眠れないひとの為に
ぼくは言葉の音楽を鳴らす。

風はなにかをゆらすことで
風の形を見せてくれる。
いちめんの稲穂
ススキの原
高いくぬぎの葉
つよく よわく
うたうように
おどるように。

あなたのこころをゆらせたら
ぼくの言葉も
風のように見えて来るか。

  ★  ★  ★  ★  ★

つめたい肩には
やさしい言葉を一枚
そっとかければいい。

やさしいひとは
それが当然のように
影の中を歩いている。
だからだれも気づかない。

自分のことで頭がいっぱいなとき
ひとにやさしくはなれない。
うしなうものがなにもないとき
きっとだれにもやさしい。

ほんとうに必要な言葉は
いくつもない。
胸のなかで光って浮かんでいる
小さな青い玉。


◎当日の写真は次のサイトで見ることができます。
http://webryalbum.biglobe.ne.jp/myalbum/2006438007667b23e33c59b9142ffab118c63f430/435320419373129021http://tikuyu-shamisen.com/http://web.mac.com/gorogoronyan/iWeb/811327D6-EED2-4DF2-A4B2-0A11BAB7C72A/Live%20Schedure.htmlhttp://webryalbum.biglobe.ne.jp/myalbum/2006438007667b23e33c59b9142ffab118c63f430/435320419373129021shapeimage_3_link_0shapeimage_3_link_1shapeimage_3_link_2