The World According to Goro
 
今年もまた春一番の季節がやってきた その2
2008年5月14日水曜日
 
 5月4日日曜日。祝春一番2008の三日目。午前10時頃に会場の服部緑地野外音楽堂に到着。今日の開場前の入口前の特設ステージの「アウトサイド・ギグ」には、朴保さんとキーボードのSassy Tomoさんが出演。ぼくはステージのすぐそばで耳を傾ける。
 在日朝鮮人慰安婦宋神道(ソン・シンド)さんのドキュメンタリー映画『オレの心は負けてない』の中で使われた「傷痍軍人」の歌が強烈だった。「オレの心は負けてない」というのは、日本政府に謝罪を求めた裁判で敗訴した時に、報告集会で宋さんが言った言葉だと、朴保さんが歌う時に説明していた。
「裁判に負けても、オレの心は負けてない」

 11時になると野外音楽堂のステージでコンサートが始まり、この日の最初はいとうたかおさんと長田TACO和承さんの二人が、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの「Find The Cost of Freedom」一曲を、延々と20分近く演奏。
 いとうさんたちの演奏に続けて、ぼくは客席の前の方に座って、あるいはいつもの芝生席に行ったりして、小谷美紗子さん、ぐぶつ、小川美潮さんのウズマキマズウ、良元優作さんたちの演奏に耳を傾けた。しかし芝生のみんなのいるところに行って、ワインをおねだりするのは極力控えるようにする。今日は夕方、ぼくのVagina Fuckの出番があるのだ。

 Vagina Fuckは、1970年頃にぼくが組んでいたバンドの名前で、このとんでもない名前は、当時人気のあったロック・バンド、Vanilla Fudgeのもじりだ(「Keep Me Hanging On」が大ヒット)。しかしあまりにも強烈すぎるというか、ひどい名前だという声があちこちで起こったので、その頃ぼくが一番好きだったロック・バンド、カントリー・ジョー&ザ・フィッシュをこれまたもじって、田舎五郎と魚というもうひとつの名前を、時と場合によって名乗るようにした。
 結成時のメンバーはベースが中川イサトさん、リード・ギターが永井〝ヒョコ坊〟充男さん、ドラムスが戸田ちん、そしてリズム・ギターと歌がぼくという四人組。1971年の第一回目の春一番での天王寺野外音楽堂だけでなく、京都の円山野外音楽堂、東京の日比谷野外音楽堂、あるいは大阪は中之島のオフィス街やどこかの大学祭など、演奏した回数は限られているが、いつも大音響で、ぼくはひたすら咆哮し、意識的にギターを投げ捨て、戸田ちんは無意識のうちにシンバルやバスタムを倒すという、とんでもないステージだった。限られた回数しかやっていないのに、後になってから、「Vagina Fuckのステージを見たよ」と言ってくれる人が意外に多いことには驚かされた。そのほとんどの人がにやにや笑いながら言ってくれるのも、理由はまたよくわかるのだが…。
 2008年の春一番はVagina Fuckでやろうという話が、何となく持ち上がり、最初はできるかぎり当時に近いかたちでやりたいと思っていたが、まったく音信不通だったドラムスの戸田ちんが残念なことに他界してしまっていることを知らされた。それを教えてくれたのは、同じ頃「ごまのはえ」というバンドでドラムスを叩いていた上原〝ユカリ〟裕さんだった。
 そこで新たなドラムスをユカリさんにお願いしたところ、彼は3日に瀬川洋トラベリン・オーシャン・ブルーバーズのドラマーとして春一番に出演するものの、翌4日はそのバンドで名古屋に行ってライブがあるということ。そうこうするうちイサトさんも当時のようにベースで参加するのではなく、リズム・ギターを弾くと言って来て、オリジナルに近いかたちでの再結成はかなり難しくなってしまった。
 ということで、祝春一番2008では、1970年頃のVagina Fuckにこだわるのではなく、まったく新しい2008年のVagina Fuckをやろうと発想を転換し、最近よく一緒にライブをやっている真黒毛ぼっくすのメンバーを誘って、昔とはまったく違うVagina Fuckを作り上げた。
 ラインナップは、リズム・ギターが中川イサトさん、リード・ギターが永井〝ヒョコ坊〟充男さん、ベースが河合徹三さん、そして真黒毛ぼっくすファミリーから、ドラムスが柿沼朋音さん、ソプラノ・サックスが遠藤里美さん、テナー・サックスが鈴木大介さん、キーボードが大槻智美さん、パーカッションとコーラスが大槻香苗さん、コーラスと喜びのダンスが大槻ヒロノリさん、それにアコースティック・ギターとリード・ヴォーカルがぼくという十人編成。
 Vagina Fuck 2008は、4月の終わりに一度東京の吉祥寺のスタジオでリハーサルをし、万全の態勢で祝春一番2008に挑むことになった。

 ところが出番の5月4日当日、お昼が過ぎ、一時が過ぎても真黒毛ぼっくすファミリーのメンバーがなかなか会場に到着しない。二時からはステージの裏にあるリハーサル室で軽く音合わせをすることになっているのに。彼らは昨日3日は京都でライブだった。
 ちょっと不安な気持ちになり始めたところ、まずは大槻ヒロノリさんが肩からいつものように鞄をかけ、いつものように怪しげな様子で現われ、それからほかのみんなも徐々に集まり、二時直前になってドラムスの柿沼朋音さんも登場。何と彼女は前日のライブの京都から大阪へとJRでやってくる途中、電車の中に荷物を忘れてしまい、それでいろいろあって、遅れてしまったのだ(荷物は無事姫路で発見、保護された)。

 ということで二時から予定通り音合わせを開始。小川美
潮さんのウズマキマズウで来ていたマック清水さんも急遽
パーカッションで参加してくれることになり、リハーサル
にも顔を出してくれる。
 リハーサルの時間は、大塚まさじさんの月夜のカルテッ
トの出番とぴったり重なってしまい、まさじさんたちのス
テージも、そこで飛び入りした中塚正人さんや田川律さん
のステージも見ることができなかった。
 中塚正人さんは旭川出身で、70年代によく一緒に歌ったり、飲んだりしていたが、いつのまにか人前で歌うことをやめ、最近までは山口県の防府市でうどんやさんをやっていた。この一、二年、ぼくが山口に歌いに行った時はお寿司の差し入れを持ってライブを見に来てくれ、また歌いたそうな気配が彼からびしびしと伝わって来た。
「ぼくがよぼよぼのじいさんになったなら」と歌い始められる「風景」は中塚さんの代表曲で、今もいろんな人たちに歌い継がれている。
 昨日3日の夜に江坂の中華料理屋でみんなで飲んだ時は、そこに中塚さんもいて、やはりそこにいた加川良さんと一緒に、久しぶりに人前で、それも春一番のステージで歌うということで緊張しまくっている彼を、さんざんいじめまくったのだ。だから彼の久しぶりのステージはどうしても見たかったのだが、タイミング悪く、見ることができなかった。後で中塚さんに話を聞くと、やはりすごく緊張したらしく、わけがわからないうちに出番が終わってしまったということだ。

 そうこうするうちに4時半頃になり、いよいよVagina Fuckの出番。春一番プロデューサーの一人、福岡風太さんが「ヴァギナ・ファック‼」と、勢いよく紹介してくれたが、よく考えてみれば、今回はメンバーの中に九歳の小学三年生がいるではないか。彼女が学校の先生に春一番のことを報告し、「そう、連休は大阪に演奏しに行ったの? それでバンドの名前は何だったの?」などと聞かれたらまずいと、一曲目の「ビッグ・スカイ」が終ったところで、「今回はメンバーに未成年がいるので、Vagina Fuckはやめて急遽田舎五郎と魚2008にバンド名を変更します」とステージでぼくは言ったのだが、四曲を演奏し終えてみんながステージから退場する時に、風太さんに始まる前よりも大きな声で、「ヴァギナ・ファック‼ ヴァギナ・ファック‼」と、繰り返し叫ばれてしまった。

 Vagina Fuck 2008改め田舎五郎と魚2008は(もうどっちでも、何でもいいや)は、結局パーカッションにマック清水さんだけでなく、wachoさんやぼくがVagina Fuckの後にやっていた「たらちねしょんしょんバンド」のドラマーのトンこと林敏明さんも加わってくれ、総勢13人の大所帯バンドとなった。
「ビッグ・スカイ」でスタートし、1970年のVagina Fuckのレパートリーだった「ロング・ブラック・ベール」、「For A Life」、「イマジン」の4曲を演奏した。「ロング・ブラック・ベール」以外は、真黒毛ぼっくすと一緒に演奏する時の大槻ヒロノリさんのアレンジをもとにしていて、とてもいい調子で歌うことができた。演奏し終えた時の満足度もかなりなもので、もうVagina Fuckという名前は使わないと思うが、この先真黒毛ぼっくすのメンバーを中心に新たなバンドを作って、ライブやレコーディングに邁進してみたい気持ちに強くさせられた。

 自分たちの次の出番はふちがみとふなとで、久しぶりの二人のステージを見たかったが、後片付けなどをしているうちに終ってしまい、客席に行って見ることができたのはラスト前のパンチの効いたブルースと、トリのいとうたかおさんだけ。2008年三日目の春一番は、いとうたかおさんで始まり、いとうたかおさんで終ったのだ。
 終演後はまたみんなで昨日行った江坂の中華料理屋へ繰り出し、そこでさんざん飲み食いした後、明日出演するバーボンストリートブルースバンド御一行と別の店で合流し、そこに中川イサトさんたちも駆けつけ、大いに盛り上がった。それからもう一軒別の店に行って飲み続けたのだが、誰とどこに行ったのか、行った誰もが次の日まったく思いだせないというていたらくだった。しかし、春一番はほんとうに楽しい‼
 万歳‼ Vagina Fuck‼

(写真はSeals Recordsの秋山光雄さん撮影のものです。ありがとうございます)