落陽記

 

80


雄元は琥珀一行を値踏みしたが、それは琥珀の方でも同じであった。部屋の脇に寝かされている女は顔こそ見えないが、どう見ても貴族の女であったし、永明や金維央(いおう)の二人が山賊を倒した腕前は相当なものであった。


こちらが名乗りながら、名乗らない男の態度といい、かつてはかなりの身分のものだったのが窺える。女は男の妻なのか、それともこの一行の主人なのか、そこのところはよく分からなかった。


ただ荷をほどかして酒や食べ物をせめてもと並べると、永明ら供が喜色を見せた。


「どうぞ存分にお召し上がり下さい」


琥珀は雄元に酒の入った杯を手渡そうとした。だが、それは呂雲によって遮られ、両手をもって雄元に捧げられた。「かたじけない」と雄元は礼を言ったが、一口飲むと、寝ていた女の唇にそれは行った。


「どうしたの」


「今夜は同宿の客人がある」


目がさめた女が白い指で目を擦った。


「奥方がお疲れのところに大人数で押し掛けて申し訳ない」


「......」


琥珀は二人の関係を推し量ろうと試みたが、雄元は何も言わず、玉兔を抱え起こした。


頭から被せた衣。そこから金の耳飾りがのぞいていた。鳳凰のつがいの飾りである。王家かそれに準ずる身分だと琥珀はみた。興や西夷の拡大がここ数年激しく、小国の多くは滅びている。


この女もそんな一人だろうかと琥珀は思った。



「おいしい」


「美味いか」


玉兔が盃に少し微笑んだ。


「まるで父上のお酒のよう」


それは玉兔にとって何気ない言葉であった。だが雄元も言われてみれば、今飲んでいる酒は確かに寧の濁り酒に似ていると思った。寧を滅ぼして以来、何度となく飲んだそれは、舌が憶えている。公のみが許された酒の濃厚さは存在しないが、口当たりはまさに寧公の酒。


「何者だ」


雄元はとっさに剣を抜いて琥珀に向けた。呂雲も反射的に抜刀して琥珀の配下の喉元に刃を向けた。


「......」


琥珀は鋭い目を上げた。


「そちらこそ何者だ」


「この状況で俺に先に名乗れというのか」


既に永明と金維央も琥珀に剣を抜いていた。


「剣を下ろしたら?お互い名乗るにはおよばないわ」


玉兔のみが冷静に男たちを諌めた。


「かまいませんよ、姫君。私は楊琥珀。寧人です」


「ようこはく?」


「はい」


「まさか禁軍の?」


琥珀は目を見開いた。被りものを解いた女の顔を見て、『玉兔公主!』と叫び、地に頭を付けた。

Next>

ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)