落陽記

 

76


「何をお前は占いたいというの」


玉兔は雄元を見上げた。


「お前を今、抱くべきか否か」


「......」


九つの太陽の巫女はその占いの理由を尋ねはしなかった。ただ、窓から一本だけ伸びる月明かりを見つけると、そこに髪の束を置いた。占いに必要な火もなく、焼く骨もない。髪の二本のうち一本に簪の花の細工を折ったものをくくり付けて掌の中にそれを入れた。


そして月に祈りを込める。


床に跪いた玉兔の花鈿に月の線が当たり、彼女の力を支えた。


「さあ、お前はどちらを選ぶ?」


玉兔の掌が雄元の前に置かれた。


彼は彼女の手に視線を落とし、そして玉兔のかんばせを見た。巫女の視線が静かにそれに向かい合っている。白い手。黒い二本の髪。雄元には選べなかった。彼女を王には渡すことはできない。そこまでして望む保身ではなかった。


たとえ、普通の女にしたとしても、彼女は雄元にとって永久に九つの太陽である。『さあ』と差し出した玉兔の掌を掴むと、共に跪いたまま、彼はその白い手に唇を当てた。


「俺は激しく生きたい」


「......」


「北辰さえも俺の生き方にきっと動くだろう」

*北辰=北極星


「雄元......」


雄元は玉兔を立ち上がらせた。


「どうするの?」


「逃げる」


「どうやって」


玉兔の問いに雄元は笑った。そしてその答えるより先に戸を蹴り倒した。兵が慌てて飛び入って来たのを彼は素早くかわすと、腰の剣を瞬く間に奪って相手の喉元を裂く。飛び散った血の量におののいた兵たちを雄元は次々に切り倒した。


「さあ、早く来い」


差し出されたのは真っ赤な血のついた手。


以前の玉兔なら悲鳴を上げて逃げ出しただろう死の穢れ。しかし彼女はそれを迷わずとった。その血の中にかすかに雄元のそれも混ざっているのを感じて、彼女は『激しさ』を感じた。北辰さえも動かすと言い放った雄元。その魂に彼女の心も同じ音律で共鳴しているように奮い立つのである。


雄元が奪った二本のうち、一本の剣を手に取ると、玉兔も長く裾をたれる衣を脱ぎ捨てて向かい来る兵に共に向かった。


「所詮李敬健の兵だ。体では戦わず頭を使おうとする」


背中合わせに呼吸を合わせた時に雄元が言った。確かに、と玉兔は思った。これは天に捧げる剣舞と同じであろう。五感で向かえばいいのだ。研ぎすまされた感覚が彼女の体をしなやかに曲げた。


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